【追憶の名馬面】クロフネ

白い黒船が競馬場に現れたのは、2000年10月14日の京都競馬場。マイル戦でデビューを迎えた彼は、3番人気に支持された。父のフレンチデピュティ、母系のClassic Go Goという謎の血統、それにプラス芦毛なのに黒船という不思議さ…。その名に込められた願いは、理解しても、珍名馬の雰囲気はボンヤリと漂っていた。

しかし、クロフネは、そのスチャラカなムードを、自らの走りで一蹴する。2歳馬とは思えない雄大な馬体をダイナミックに躍動させる走行フォームは、久々に恐ろしいマル外が現れた、ということを人々に予感させた。

結果は、先に抜け出したエイシンスペンサーを捕らえきれず2着に敗れたが、直線で前が塞がり、追い出しが遅れる不利があっての敗戦。それを捌いてからの伸び脚は、バケモノ襲来!を確信させるものだった。

折り返しの新馬戦は、距離を2ハロン延ばした2000m戦。延びたほうが良い、という陣営の思惑通り、彼は圧巻のパフォーマンスを披露する。道中は3番手付近に付け、4コーナーで一捲り。直線は、ほぼ馬なりで駆け抜け、2馬身突き放し初勝利。タイムは2:00.7のレコードタイム。小雨降る淀で、逞しい汽笛を鳴らした。

続いて挑んだのは、密かな出世レースとして知られているエリカ賞。前走見せた圧巻のパフォーマンスに魅了された人々は、彼を1.3倍の圧倒的1番人気に支持した。4コーナーで早々と先頭に立つと、そこからは楽に後続を引き離し3馬身半差の圧勝。タイムはまたしてもレコードだった。

2戦連続でレコードタイムを記録する圧勝。その姿は、スーパーカーと言われたあの馬に重なるものがあった。彼は、どれだけ強くてもダービーの舞台を走ることを許されなかったけど、クロフネは違う。外国産馬への門戸開放は、確実に新しい夢をファンに与えた。

12月23日、第17回ラジオたんぱ杯3歳S。GⅠの朝日杯よりも、クラシックに直結すると言われている名物レースに、クロフネは挑んだ。臨戦過程、その内容共に◉の評価。単勝オッズ1.4倍も驚くような支持ではなかった。

このレースで彼は、2頭の駿馬と遭遇する。サンデーサイレンス産駒のアグネスタキオン、トニービン産駒のジャングルポケット。ダービー馬の弟、として現れたタキオンはデビュー戦でいきなり33秒台の末脚を披露し、ファンの度肝を抜いた。ジャングルは、夏の札幌でデビューし、北の2歳王者に君臨。鞍上が千田から角田に替わった彼には、ある馬の幻を背負わされていた。

共に内国産馬。無事に行けば確実にダービーへ出走できる彼らに対し、外国産馬のクロフネは、一つでも星を落とすと一気にダービーが離れていく。負けることは許されなかった。

内国産馬の駿馬か?外国産馬のカイブツか?20世紀も終焉間近の暮れの仁川が、熱気に溢れかえった。

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