世界最高レーティングを保持するフランケルが、その戦績に傷一つつけることなく14戦無敗のまま引退し種牡馬入りしたのが4年前の2012年のこと。翌年から種付けを開始し、2014年に初年度産駒が産まれ、今年から2歳馬が世界中で猛威を振るっている。
種牡馬の椅子取りゲームは熾烈であり、生半可な成績ではそう簡単にはなれない。それでも名馬の仔が必ず優秀であるということはなく、走りの才能はあっても種牡馬としての才能には恵まれないということは珍しくなく、競走馬として篩いにかけられた優秀な遺伝子の中から更に一部の種牡馬のみしか成功することが出来ないのが馬産の現実。
世界最高レーティングという期待はあるものの、フランケルの産駒もいざデビューするまでは非常に心配されていたこと。誰もがディープインパクトのように期待に応えられるとは限らない。特にブランド価値を維持するために交配相手の牝馬も厳選に厳選を重ね、初年度は130頭に絞り、GⅠ勝馬とGⅠ勝馬の母親だけでも64頭にも登る。
相手方もフランケルのために万全の準備を整えてきた。種牡馬としてはいまいちでしたでは済まない規模の額が動いたが、結果は上々。日本だけでみても出走4頭のうち2頭が勝ち上がり、ソウルスターリングは阪神ジュベナイルフィリーズを優勝し、ミスエルテは今週牝馬ながらに朝日杯フューチュリティステークスへ挑む。
実に36年ぶりの快挙へ
朝日杯の牝馬優勝は遡ること36年、第32回開催のテンモン以来ない。この時期似たような条件の阪神JFがあるためそもそも挑戦自体が少ない。しかも朝日杯も中山から阪神へ開催場を引っ越したことで、さらに牝馬が挑戦する意味が薄れてきた。
敢えて挑戦する意味とは?並の牝馬であればダメ元のジャイアントキリング狙いと見る向きもあるが、ミスエルテは前述の通り超期待の血統であり、自身もファンタジーSを勝利して牝馬路線で充分に実力を発揮してきている。36年ぶりの快挙を本気で狙いに来ているというのが受け入れられ、現段階では1番人気の想定。
3年前のファンタジーS勝ち馬ベルカントが朝日杯へ挑んだことを覚えている方は多いだろう。結果は3番人気10着の惨敗だったが、今から思えば牡馬相手というよりはベルカントにとって1600mという距離が壁としてあったということは、後の活躍を見ていただければお分かりいただけるだろう。2015年の北九州記念ではビッグアーサーに初黒星を与えている。短距離女王ベルカントにとっては初挑戦となる1600mは非常に分厚い壁として立ちはだかった。
一方でミスエルテにとってはどうか?未だ戦績は2戦のため適性を語るには早すぎるが1600が長いとは言えないだろう。父フランケルの最も得意とした距離はご存知の通り8Fマイル戦であり、新馬戦はここと同じ阪神1600mの舞台。
ファンタジーSも距離こそ1400ではあるが、最内枠の1番から馬群を嫌ったのか出遅れ気味のスタート。その後は後方集団の外目を周り、最後は大外から一気に駆け抜けての勝利であり、出走馬中最も効率の悪いコースを通って来た。
今年は特に牝馬が豊作の年と言われている。牡馬混じりの2歳重賞9レース中3つが牝馬による優勝となった。その中でも最も注目を集めているのがソウルスターリングとミスエルテのフランケル産駒2頭であることは間違いないだろう。ソウルスターリングは期待に応え見事に結果を残した。ミスエルテが更なる成果を見据える。