後世にまで語り継がれる名馬になるには、競走成績にプラス、個性がなくてはならない。と考えている。
例えば平成期で初めて三冠馬に君臨した、ナリタブライアン。
クラシックロードで、暴君の様な強さを見せつけた彼は、鼻上にシャドーロールを装着していた。馬場で競い合うライバルではなく、自分自身の陰に怯えた。というエピソードは、強さを感じる反面、どこか可愛らしさも覚える。
シャドーロールという馬具が無くならない限り、ナリタブライアンの記憶が人々の中から消えることはないだろう。
或いはディープインパクト。
シンボリルドルフ以来、史上2頭目の無敗の三冠馬となった彼は、その強さが個性になった。サイボーグのサラブレッドが挑んで来ても、ディープには敵わない。同族のウマ達のみならず、我々ファンも彼の強さには、只々、平伏するしかなかった。
もちろん私も、ディープさんの強さに平伏したチッポケなファンだ。しかし、彼が見せた様々なレースシーンの中で、菊花賞の1周目4角が最も印象を残っている。とあるアメリカの名手が、とあるレースでやらかしたゴール板誤認。ディープさんも、これをやらかした。
この印象が強いため、彼のことを「只々、強いサラブレッド」とは思わず、「自分を制御出来ないくらい強かったサラブレッド」と密かに評している。
彼ら以外にも、個性的で愛さずに、または語らずにいられない名馬がたくさんいる。しかし、近年で最も、我々を虜にした名馬は、同じ血統構成を持った2頭だと思う。
このコラムは、別段、何も製作ルールを設けていない。故に、その2頭を両方取り上げても良いのだけれど、今回は年功序列に従い、キンキラキンのアイツが最後に見せた、パフォーマンスを振り返ってみたい。白いアイツのことは、来年のどこかで…。
フランス語で「金細工師」という意味の名を貰ったキンキラキンの馬は、私たちの感情をスリリングに弄んだ野郎だった。デビュー戦、そして三冠制覇を達成した日、彼は背中の上にいたパートナーを振り落とした。
デビュー戦は目を瞑るとしても、歴史に名を残す三冠制覇の瞬間に騎手を振り落とすのはどうだろうか?と疑問に思いつつ笑ってしまった。そして破り捨てたウインバリアシオンの単勝馬券・・・。
翌年の阪神大賞典、彼はまた我々を驚かせるパフォーマンスを見せる。
向こう正面で早々と先頭に立ち、王者としての振る舞いを期待したのも束の間、3~4角で急失速。この時、誰もが一瞬、彼の死を予感した。
ところがドッコイ。この野郎は、馬群を見つけると、再び闘志に火をつけ、猛獣の如く、ライバル達に襲い掛かった。結果こそ2着に敗れたが、"見てはいけないモノを見てしまった"という異様な興奮が、日本、更には海を越えて世界中の競馬界に広がった。
真面目に走れば、ブライアンやディープより強いだろう。
興奮から覚め冷静に考えてみると、勿体無さを覚えた。しかし、真面目に走れば彼のスリリングさが失われるかもしれない。名を捨てて実を取るか?と、思案した時、私は、"スリリングな強い馬"でいて欲しい。と勝手に結論付けた。
三冠制覇、まさかの逸走、ロンシャンで流した2度の涙…。その走り、仕草を思い返すと、まるで名作喜劇の様で、いつ見ても面白い。と思えるモノだった。
2013年12月22日。
中央競馬のオーラスを飾る有馬記念に、彼の姿があった。
このレースを持って競走馬生活を終える、と表明していた金細工師。泣いても笑っても、彼の快活な喜劇を見られるのはこれで最後とあって、58回目のグランプリレースは、彼の話題で持ち切りだった。
恐らく勝つ…いや待て、最後にまたトンデモナイ事をやらかすか?
様々な思惑が交錯する中、グランプリのゲートが開いた。
さすが選ばれしスターホース達。全馬、見事な発馬を決めた。ハナを叩いたのは福永のルルーシュ。番手にカレンミロティックと戸崎が続き、レースが流れ始めた。
3番手以降は一団で、ダービーと菊で悔し涙を流したウインバリアシオンは、岩田に導かれ最内をキープ。その斜め後ろには、白いアイツ。鞍上はライアン・ムーア。世界最強のジョッキーに舵を取られ、静かに進んでいた。
一方、金細工師は、好位集団から2馬身ほど離れた位置につけていた。久々に手綱を通わせる池添に宥められながら、2周目1~2コーナーへ。傾く冬の夕陽が、彼の美しい栗毛の馬体を照らし、一瞬キラリと輝く。徐々に作品が形になってきたのか?
向こう正面に入ると、レースを引っ張ってきたルルーシュがやや後退し、カレンミロティック、さらに外から中山を愛するナカヤマナイト柴田善臣が接近。数多ある競馬シーンの中で、「いつまでもこの高揚感に包まれていたい。」と思ってしまう有馬記念というレースが、フィナーレへと近づいていく。
カレンミロティックを先頭に2周目3コーナーを曲がる頃、たまらん!とばかりに内田のトーセンジョーダンが捲ると、白いアイツの帆が師走の風を受ける。かつて共に航海へ繰り出した内田を目掛けて、彼は進み始めた。
3~4コーナーでの各馬の動きを伝えるため、カメラが引きの画になった。ルルーシュが馬群に飲み込まれ、好位陣が浮上していく光景が映し出された時、後方を進んいた黄金野郎のスイッチが入った。
別次元の手応えで、一気に捲り切ると、最終コーナーの出口で先頭に立とうとしていた。その背後から、内で脚を溜めていたウインバリアシオンが忍び寄る。最後に一矢報いて、ライバルを送り出そうとしたバリアシオンだったが、背後に付けられたのは一瞬で、直線に入るとライバルの姿はなかった。
荒れ馬場もクソも関係ない。最内へ進路を取り、残り200mの地点で池添がステッキを入れると、彼の姿が消えた。
ビックリする様な瞬発力を発揮し、あっという間に中山の坂を駆け上る。3馬身、4馬身、池添が追えば追うほど、輝きが増していく。スタンドの影で覆われているため、直線は陽の光が当たらない。しかし、そこには目を細めてしまうくらい眩しく輝く、彼の姿があった。
8馬身の圧勝。栄光、悔しさ・・・酸いも甘いも噛み締めてきた金細工師は、最後に見事な作品を中山で完成させ、ターフに別れを告げた。彼が最後に見せてくれた作品を見て、私は拍手を送りつつ、心の片隅で小さくツッコんだ。
オルフェーヴルや。お前、滅茶苦茶強いやないか…
街にジングルベルが鳴り響く中、行われる今年の有馬記念。様々な攻略方法、予想方法がありますが、このレースは純粋に「好きな馬」を買えばいい。と思います。
今年、最も好きだった馬と一緒に、有馬記念を楽しみましょう!