「世界に通用する強い馬づくり」を目的として創設されたジャパンカップも今年で37回を迎える。その理念通りに、40年前と比較して海外で活躍する日本の競走馬は何と増えたことだろう。ジャパンカップはそのための手段というよりは、世界を推し量るための指標に近いように思う。ジャパンカップがあるから日本馬が強くなるということはないが、強い外国馬を迎えることで日本のホースマンたちが「世界」を肌で感じる機会は大いに与えられたことだろう。
まさしく世界の強豪との激しい戦いとなった創設当初のジャパンカップだったが近年ではすっかり様相が変わってきている。海外馬が最後に勝利したのはアルカセットの優勝した12年前。馬券になったのもその翌年の3着ウィジャボードが最後という有様。海外馬が活躍できなくなった背景にはまず国産馬の飛躍があげられる。海外重賞で成果をあげられるようになってきた時期とジャパンカップで日本馬の優勝が目立ってきた時期は重なる。
しかし、いくら国産馬のレベルが上ったと言えども海外遠征に出て必勝とまではいかないのは御存知の通り、単純なレベル比較で言うなら「競走が出来るレベルに追いついた」というのが妥当なところだろう。ではなぜジャパンカップではその図式が当てはまらないか?それは、一流馬同士の競走になっていないからだ。ジャパンカップが海外から見たドル箱レースだった頃は一流どころが賞金稼ぎにやってきてくれたかもしれないが、良い勝負をするために遠い島国に来るにはリスクが勝つといったところだろう。
競馬の本場とも言えるイギリスも同じく島国ではあるが、フランスとの間にあるドーバー海峡は狭いところで34kmほど、北海道と青森を隔てる津軽海峡の2倍にも満たない距離であり、欧州連合というつながりからも、やはり日本と同様の島国とは言い切れない部分が大きい。物理的な距離の問題もあるが、環境の違いから来る検疫体制の問題も大きい。欧州にとってのジャパンカップは日本にとっての凱旋門賞ではないのだ。
だからこそ、今年出馬してきてくれたアイダホは、現在のジャパンカップのあり方に一石を投じる存在となりそうだ。確かにアイダホ自身の戦績だけを見るならばGⅠも未勝利で、例年の所謂一枚格落ちの海外勢よりも更に落ちる存在。しかし一つ上の全兄ハイランドリールは香港ヴァーズでサトノクラウンと対戦していることから名前を覚えている方も多いだろう、こちらは国際GⅠを6勝している本物のチャンピオンホースであり、アイダホもその血を継ぐ存在なのだ。
また、管理調教師のエイダン・オブライエンはアイダホの父でもあり世界の大種牡馬でもあるガリレオをはじめ、数々の名馬を育てた名伯楽でもあり、昨年の凱旋門賞においては上位3頭を独占する離れ業を成し遂げた世界を代表する調教師の一人。彼に取ってジャパンカップが今後も来るべき価値のあるレースであると認められれば、今後世界のトップホースが集まるレースになるきっかけとなりうる。そのために我々競馬ファンの出来ることなどは非常に少ないが、せめて興行の無事成功することを祈りたい。