この時期の3歳はまだ2000mより上の距離を経験している馬が少なく、「距離の不安」はダービー出走馬には宿命的な不安要素となっております。これまで走ってきたレースやその馬の血統から適性を見極めるファンが多いかと思います。
さて、今年のダービーは皐月賞を見る限りレベルの高いレースとなりそうで楽しみは尽きませんね。皐月賞で「3強」と言われたリオンディーズ、サトノダイヤモンド、マカヒキに、その3強をおさえて皐月賞を優勝したディーマジェスティ、さらに昨年の2歳王者エアスピネルと豪華メンバーが集結しています。過去の傾向を見ても多くのダービー馬を生んでいる皐月賞組は重要視したいローテ組です。皐月賞組の中で一番距離が伸びて良さそうなのはディーマジェスティではないかと筆者は考えておりますが、そう思わせる理由は以下の血統的な裏付けにあります。
ディーマジェスティは父ディープインパクト、母エルメスティアラ、母父ブライアンズタイムという血統。ディープインパクト✕ブライアンズタイムという配合は、メトロポリタンS(OP)の勝馬モンドインテロや、プリンシパルS(OP)3着馬のゼーヴィント、ダートので活躍していたマイネルストラーノやブランプリブラッドなどがおります。芝・ダートの中長距離馬が多く、スタミナ型の馬が目立ちます。スタミナ面においては申し分なく、信頼度の高い血統と言えるでしょう。
叔母にはステイヤーズS(G2)で2着馬だったエルノヴァがおり、祖母のシンコウエルメスは兄に1991年の英ダービー馬ジェネラス、全妹に2001年英オークス馬イマジンを持つ欧州名門の血が凝縮された世界的な良血です。
しかし、ここで牝系を見ていて気になったのですが、母のエルメスティアラはレース自体走っていませんし、祖母のシンコウエルメスは世界的な良血馬にも関わらずたった一戦で引退しています。ここに高額なディープインパクトを種付けさせたのだから、なぜ?と気になって色々と調べていると、そこにはこんな隠れたドラマがあったのです…。
命を救われた祖母シンコウエルメス。牝系の血統にはこんなドラマが…
祖母のシンコウエルメスは上記でも記したとおり世界的な良血馬ですが、新馬戦で大怪我をしてしまい、獣医から予後不良の診断が下されてしまいました。しかし、あまりの良血を惜しんだ藤沢和雄調教師は獣医を説得し、その熱意に動かされた獣医はボルトの埋め込み手術を施し、シンコウエルメスは一命をとりとめました。藤沢師の判断によって救われたシンコウエルメスはその後無事に繁殖生活に入れたという逸話があったのです。
良血を途絶えさせなかった藤沢師の大胆な判断にも驚かされますが、そのシンコウエルメスの子であるエルメスティアラにディープインパクトを種付けさせた嶋田オーナーもなかなかやります。今年の皐月賞は良血の血の強さを信じた人間の英断が歴史を変えた瞬間でもあったと言えるでしょう。
もう20年も前の話になりますが、今日のディーマジェスティがあるのはこのおかげであり、競馬ならでの「血を繋ぐドラマ」がここにあるのです。血統的に買えるということだけでなく、ここまで隠されたドラマがあったとは、正直ロマンを感じざるを得ないですね。今年は蛯名騎手の悲願のダービー初制覇もかかっておりますし、長きにわたって引き継がれてきた血統のドラマが多くのファンを感動させることになるかもしれません。