JRAの入場完全再開はいつなのか?「新しい競馬のあり方」は生まれるのか?

今週はいよいよ3歳牡馬クラシックの最終戦「菊花賞」が開催です。京都競馬場も制限付きではありますが有観客競馬を再開。指定席の抽選が当たって久々の現地観戦を楽しみにしているファンもいらっしゃることでしょう。

少しずつですが、競馬場にお客さんが入場出来てきているのはやはり競馬ファンとしては大変喜ばしいことであります。先週末、秋華賞をテレビ観戦していましたが、ゴール時にお客さんの拍手が聞こえた時には大変感動しました。競馬は大声援と拍手喝采があって当然と思っていましたが、今は小さな拍手でも感動することが出来ており、自分の中でも競馬の見方が変わったと感じざるを得ないと思えた瞬間でした。競馬を見ているファンの心持ちもこの1年余りで相当な変化があったのではないかと感じます。

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、JRAは2月29日から無観客での開催を発表し、10月になりようやく指定席の一部で入場を再開しました。約7ヶ月ぶりの有観客再開ということで決断のタイミングについては賛否両論ありますが、過去にJRAが競馬の開催を中止してきたケースと比較してみますと、2007年の馬インフルエンザ流行時、2011年の東日本大震災発生後も、代替開催や日程変更など大きな影響こそありましたが、開催休止は約1~2ヶ月です。馬券が買えないわけではなく、開催中止期間での比較でもありませんが、ここまで長い期間競馬ファンが競馬場へ足を運ぶことができなかったケースは初めてのことです。

一般席を含めた有観客競馬を開催すれば、新型コロナウィルスの感染を拡大させる可能性を高めてしまうことから、慎重な姿勢を取るJRAに対して肯定的な見方をしているファンも多いことと思われます。しかしながら、数百万人と言われる競馬ファンの人口を考えれば、当然現地観戦を望む競馬ファンも多くいることでしょう。

「いつになったら競馬場へ行けるのか?」というのが競馬ファンの一番想うところだと思いますが、指定席の抽選が当選しない限り、中央競馬の現地観戦に関しては「当分無理そう」と考えるのが妥当であると感じます。

JRAの理念にも「要望に応えて多種多様なサービスを実施」「競馬そのものの魅力の向上」とあるように、ファンあっての競馬、ファンのための競馬というのは理念としてありそうですが、JRAには勝ち馬投票券の売り上げの1割と、運営利益の半分を国庫納付金として国に納めるという大きな役割もあります。農林水産省の管轄に置かれ、貴重な財源を生み日本経済を支えるという大変重要な役割です。

売上についてはネットでの馬券発売によってある程度安定した財源を確保することが可能となっており、新型コロナウィルスの影響で昨年時よりも落ちていますが、微減に留めることが出来ています。開催自体の中止や馬券の発売自体が中止されない限り「財源を確保する」という事については許容範囲内に役割を果たせることが出来ていると見て良いかもしれません。

となれば今JRAが問われているのは、財源確保という一部の役割ではなく、もっと大雑把な「社会的意義」ではないでしょうか。数百万いると言われる競馬ファンの人口を考えれば多大な影響を及ぼせる立場にあるのは明確です。入場を完全に再開させないことで多くの人々の外出を抑制することができ、従業員を最少人数に抑えることで感染拡大の危険性を減らすことができる大きな組織です。

第2波への警戒と対応に追われている世界各国の現状を見る限り、国の管轄にあるJRAが「感染拡大に一役買ってしまう」ことになるリスクを取ってまで「売上向上」や、現状で水準以上のサービスを展開できている中での「お客様へのサービス向上」を入場再開という形を取って選択するとは考えにくいと見るのが妥当ではないでしょうか。

先週の東京競馬は制限付きの入場で開催されましたが、大きな声援を送るのは当然ご法度、ゴール前の広いスペースは立ち入り禁止、 三密を防ぐため場内整理員がパドックや発売窓口に常時待機、イベントはなく、レース時以外の場内は感染防止や感染が後日発覚した場合の注意事項などのアナウンスが流れるといった状態でした。とても従来の競馬場の楽しい雰囲気を味わえる気分ではありません。競馬場の持つアミューズメント的な空間やエンターテインメント性が出せないとなると、現地観戦の魅力も半減でしょう。

長くなりましたが、本題の件である「完全な入場再開はいつなのか?」につきましては、2021年に開催されると言われている東京オリンピックでさえもどうなるか分からないという現状を考えると、少なくとも来年いっぱいは足踏み状態が続くのではないかという見方です。

新型コロナウィルス関連ということで少々悲観的な内容の記事となってしまいましたが、いち競馬ファンである筆者がテレビ画面ごしに聞こえた観客の小さな拍手に感動したように、競馬に対する心持ちに変化が生まれているファンは少なくないのではないでしょうか。筆者としては「新しい競馬のあり方」が誕生する可能性も高いと見ており、その誕生を楽しみにしています。