M.デムーロ出身のイタリア競馬が今ヤバイ?

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今や日本の競馬界で圧倒的人気を誇るM.デムーロ騎手。'15年の1月にJRAの騎手免許試験に合格し、外国人として初めてJRAの通年免許を取得したイタリア人騎手である。愛嬌のあるスマイルとまだたどたどしさの残る日本語で一生懸命インタビューに答える姿は好感が持て、彼の人の良さが伺える。

彼のキャラクターだけでなく、その勝ちに行く積極的な騎乗ぶりにも好感が持てる。3月1日よりJRAの正式な騎手として騎乗を開始し、その当日に開催された阪急杯(G3)ではダイワマッジョーレで勝利し、初日にして早々に重賞初勝利を果たした。その後も順調に勝利を重ねていき、今年は通算4勝目となる皐月賞(G1)での勝利をおさめ、さらには日本ダービー(G1)をドゥラメンテで制し、夏競馬でも中京記念(G3)、アイビスサマーダッシュ(G3)を勝利して名高い重賞レースを次々に制覇していっている。まさに騎手会にとっては黒船襲来である。

そんな国内での活躍が目覚ましいデムーロ騎手も元々は母国であるイタリアで騎手をしていた。イタリアの競馬でも4年連続でリーディングジョッキーになり、この頃から名手ぶりを発揮していた。

そのイタリアの競馬が現在危機的な状況に陥っているのだ。

日本も大きな債務残高に長いこと頭を悩ませているが、イタリアやギリシャの財政危機も根が深く、長期にわたって金融危機から回復できずにいる。そんな財政危機がついにイタリア競馬にまで影響を及ぼし始めたというのだ。

と言っても実際イタリアの競馬業界がヤバイと言われていたのは今に限ったことではない。デムーロ騎手本人も以前競馬専門紙"Gallop(ギャロップ)"で、レースで得た賞金の支払い遅延や、賞金自体の額の低さを指摘している。ついにはヨーロッパのパターン競争委員会から除外され、'09年には権威あるレースであるデルビーイタリアーノ(イタリアダービー)がG2に格下げになるなど、衰退に歯止めが利かない状況に陥ってしまった。

まだデムーロ騎手が外国人騎手として来日していた頃に、ネオユニヴァースで日本ダービーを制した際にこうコメントしている。「イタリアのダービー(デルビーイタリアーノ)を5回勝つよりも、日本のダービーを1度勝つ方が嬉しい」と。

イタリア競馬の衰退に伴うレースレベルの低下、騎手として食っていく上での難しさなどを考えれば賞金額も高くてレースレベルも世界的に見ても高く評価されている日本の競馬に流れてくるのは必然的か。

筆者は若い頃に一度イタリアへ旅行しにいったことがあるが、人は皆気さくで話すのが好きで街もゆっくりとしていて、なんとも過ごしやすい空気だった記憶がある。財政危機なんてみじんも感じず"俺将来ベネチアに住んで昼間っからワイン飲んでくっちゃべって暮らすわ"と勝手に妄想にふけっていたが、そんなことを言ったらイタリア人に鼻で笑われてしまうだろうな。

そんな話はさておき、イタリアの名騎手が日本に魅力を感じるのはそれだけ日本の競馬は環境が良いということである。賞金が高く、乗り馬も確保できる見込みがあり、レースは健全で安全性も高い、日本の騎手の腕も低いと感じている人もいるかもしれない。それでいて自国の競馬が経済上破綻状態ときてる。これだけの条件揃えば筆者が外人騎手でも日本の試験を受けるだろう。

イタリアには競馬以外にも様々な問題を抱えておりそれらを全て乗り越えられるかは分からないが、我々日本人もそれを実現することを期待し、エールを送らなければならない。再生に向けて努力するイタリアに目を向けて応援し、そしてイタリアに習うことによって自国の経済や政治、社会上の課題を解決できることだってあるだろう。
競馬においては日本の騎手もこれを機に騎手としてのレベルを上げていくとともに、日本の競馬を大いに盛り上げていって欲しいと切に願っている。