社台大国に「黒船襲来」!パカパカファームに学ぶ中小企業のあり方とは?

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パカパカファームは創業者のハリー・スウィーニー氏によって作られた牧場で、2012年の日本ダービーを制したディープブリランテやNHKマイルカップを制したピンクカメオ、クラリティスカイなどを輩出した新進気鋭の牧場として注目を集めている。外国人が日本国内で牧場を開設するといったことは大変難しく、農地の取得や馬主登録といったことは当時としては高いハードルであったが、自身の努力とまわりの協力により一つ一つ問題をクリアしていった。創業者であるスウィーニー氏はアイルランド出身で、肉牛を飼育し小麦を生産する農場で生まれ育った。もともと動物が好きでその後は獣医の道へ進み、1990年代からは日本の牧場で獣医師として働いていたのだ。さらにその後は待兼牧場(北海道日高町)のゼネラルマネージャーとして3年間勤務をするなどといった経歴の持ち主であった。このように日本の牧場に縁が深かったということもあるが、それを考慮しても日本での農地取得やJRA馬主の登録は相当に難しいものであったに違いない。

パカパカファームの強みとは?

パカパカファームという牧場名の由来は、親しみやすく誰が聞いてもすぐに覚えられる名前にしたかったということから名付けられた。実際に一度聞くと耳に残り、非常に覚えやすい名前である。日本人には無い独自の感性が牧場の名前にも現れており、またそれがこの牧場の強みでもあると言えるだろう。パカパカファームの強みは色々あるのだが、中でも取り上げたいのは仔馬の管理のマメさである。仔馬の頃から馬体重の確認や蹄を削る作業や体格の確認など様々なことを日々行い、その中で矯正や癖の修正を行っていく。身体の成長や走り方の改善が進む一方で、馬への接し方で人に対する恐怖心なども取り除いていき、馬との信頼関係を築いていく。パカパカファームはこれが非常に上手い牧場なのだ。競馬でイレ込む馬が少なく能力をしっかりと出せるように仕上がっている。能力があっても興奮して結果が出せないと元も子もないので、こうした要素を若いうちから取り除いていることで信頼感を増し、セレクトセールでも高値で取引されるようになっている。

ただ、やはり一番の強みは代表のスウィーニー氏の牧場長としての能力の高さにあると言って良いだろう。スウィーニー氏は記憶が抜群に良いことで有名であり、牧場の馬1頭1頭のことを細かいところまでよく把握している。仔馬は数カ月で成長してしまうため、どういう癖があるのか、性格や、蹄やなどを把握していないと馬との信頼関係はどんどん薄れていく。常に馬の状態を把握しておくことできめ細かい管理を可能にしているのだ。そんな牧場長であるスウィーニー氏のもとで働くスタッフの能力も非常に高いものである。馬との信頼関係はもちろんだが、スタッフ同士のリスペクトや信頼関係も高く、チームとして一丸となって取り組む姿勢もまた評価されている。

中小規模の牧場にとっての希望の星

スウィーニー氏の努力やスタッフのサポートもあり、開設してわずか11年でダービー馬を輩出し、セレクトセールでは高額馬を多数送り出すまでになった。パカパカファームで毎年生産される頭数は20頭前後だが、毎年100頭以上を生産する大牧場が何十年かけても手に入れられないタイトルをパカパカファームのような小さな牧場が輩出したことは快挙といっていいだろう。

日本の競走馬生産市場は「社台ファーム」という巨大グループが独り勝ちをしている状況で、中小規模の牧場にとっては厳しい戦いが続いている。しかし、大企業と中小企業の社員に大きな能力の差があるとは思えない。大手は規模が大きいので仕事を細分化して一つのことに特化した社員が多い。対して中小企業は仕事の規模は小さいかもしれないが、例えば営業だったら広報から商談までやれることはすべてやらなければならない。自分が自分の仕事を責任をもって全うすること。それは大きな喜びとなるし「仕事」を「人生」という言葉に置き換えても当てはまる。ライフ・ワーク・バランスのとれた生活を送ることができるという意味でも中小企業には魅力が多い。

規模の小さな牧場には規模が小さいからこそ出来ることがあり、それが強みになる。それを遠い異国の地からきた1人のアイルランド人が証明してくれた。異例の早さでダービー馬を生み出したパカパカファームは、中小規模の牧場にとって希望の星と言っても過言ではないだろう。