【追憶の名馬面】負け続けのヒロイン、ハルウララ

人類皆平等、というが顕微鏡で仔細に観察すると大なり小なり差は存在している、と考えている。この差に、勝った負けたを見出した時、ある者は、更に上へ、またある者は、負かされた相手を潰そうと燃え上がる。またある者(私)は、クソだな。と鼻をほじりながら、それらをぼんやり見る。浮世に存在する差は、全て埋められる様に出来ている。やる気があればの話だけど…。

競馬は優勝劣敗を大原則に、遥か昔から歴史を紡いできた。1着だけが栄誉に浴し、2着以降は、例え1cmしか差がなかったとしても全て敗者となる。

馬券も買わず、ボーッとレースを眺めていると、私は人間で良かったと実感する時がある。もし、自分がサラブレッドとして生を受けたなら、辿るルートから行き着く場所は決まっているだろう。鬼のように厳しいサラブレッドの世界。彼らに叱られるかもしれないが、この厳しさも、競馬の魅力の一つだと思う。

しかし、浮世は右から左、或いは左から右が全て正しいというわけではない。ごく稀に、全く奇天烈な方向にある事が、正解に進化する事がある。そして、これらは得てして大衆の気持ちを鷲掴みにし、一つのムーブメントを巻き起こす。

この不思議な現象が日本競馬界に起こったのは2003年。競馬の大原則、優勝劣敗の概念をぶち壊す馬が高知に現れた。名マイラー・ニッポーテイオーの血を受け継いだフィリー、ハルウララ。ゾウさんやキティちゃんの刺繍が施された手作りのメンコをいつも纏っていた、この小さな牝馬が、一つの競馬場を救い、全国を巻き込む一大ブームを巻き起こした。

次のページへ