【追憶の名馬面】クロフネ

10月27日、第6回武蔵野ステークス。

春に怪物ぶりを遺憾なく発揮したクロフネは、初ダートにもかかわらず一番人気に支持された。オッズは2.3倍。この数字から推察するに、春の実績とアメリカンなダート血統のみが評価されての、やや疑いを含んだ人気だったと思う。

芝とダートの境目に戸惑うことなく、スッと好位につけたクロフネ。しかし、明らかに走りが違う。それは悪い意味ではなく、他の馬と性能が違いすぎて、一頭だけ浮いているような走りだった。武の手は一切動いていないのに、馬なりで中団から3番手付近、4コーナー出口では、早くも先頭に躍り出た。

直線、4本の脚を全てフルパワーで駆動させ、クロフネは加速。番手以降との差はあっという間に広がった。競り合いが魅力のダートレースで、彼は9馬身の大差を付けて勝利した。タイムは1:33.3。春に制したNHKマイルカップと僅か0.3秒しか変わらない勝ちタイム。勿論、レコードである。

トンデモナイ馬が現れた…。先人達と同じく、ウマキチも突如、砂上に現れた黒船に恐怖を抱き、時代が変わることを確信した。

その翌日、行われた天皇賞は、アグネスデジタルが王者テイエムオペラオーを雨中で討ち、外国産馬初の天皇賞馬に君臨。適性を見抜いた陣営に拍手を送りたい。出走していればクロフネがその栄誉を…と、ボヤく者は、もう居なかった。

11月24日、クロフネは再び府中の砂上に立っていた。国際ダートGI、第2回ジャパンカップダートが次なる獲物。もしもここで前走と同じ走りが出来れば、ドバイもアメリカもボヤけた夢の世界から、ハッキリと確認できる現実世界に変わる。

ジェネラスロッシ、ディフフォーイットのアメリカコンビがレースを引っ張る展開。クロフネはスタートでほんの少し後手を踏み、中団から後方に位置していた。

快調に飛ばすアメリカの二騎。テンから全力で飛ばし、息つく間のなくゴールへ駆け抜ける彼らにとっては、日本のペースは容易いものだったのだろう。しかし、またしても、あの汽笛が鳴り響く。今度は、向こう正面の中間地点で鳴らされた。

次のページヘ