【追憶の名馬面】オグリキャップ

出はハイセイコーと同じく公営だが、都心部にある大井とは違い、オグリの故郷は、岐阜の笠松競馬場。

豪華絢爛なスタンドもイルミネーションも無いけど、裏手には木曽川が流れ、年季の入ったスタンドには、創設時から、しがないウマキチの腹を満たし続けてきたグルメがある、長閑で温かな、THE公営競馬場といった場所から、オグリの物語は始まった。

東海地方を圧倒的な強さで駆け回った彼が、中央競馬へ乗り込んできたのは、1888年の春。移籍初戦となったペガサスSを制覇すると、そこからまた連勝街道を荒々しく驀進。バケモノじみた走りを魅せつける芦毛馬を見たファンは熱狂し始め、ホースマン達は、この馬がクラシックに出ていたら…と冷や汗を流したことだろう。

東海地方から天下統一を目論み、鬼神のごとく進軍した織田信長の様に突き進む、血気盛んなオグリに、初めてライバルが現れた。

同じ毛色のタマモクロス。歩みは遅かったが、ゆっくり着実に成長してきた彼は、4歳の秋に覚醒すると、重賞タイトルを総ナメにする勢いで、一気に頂点へ駆け上った。

その両雄が相見えた、第98回天皇賞秋。一番人気はオグリだった。中央の生え抜きで、今日まで、めげずにやってきたタマモクロスからすれば、堪ったものではないだろう。

オグリ側から見れば、大衆が、遅咲きのエリートではなく、庶民の怪物くんを選んだ瞬間だった、と見ることができる。

レースは、レジェンドテイオーと郷原が引っ張る流れ。直線に入っても、レジェンドの脚色は鈍らなかったが、坂でタマモクロスと南井が一気に捕まえた。

オグリは、それを見てスパート。しかし、前を行くタマモクロスの脚は、全く止まらない。猛獣の如く、襲いかかったが1馬身差の2着に敗れた。タマモクロスは、史上初の天皇賞春秋連覇、という偉業を成し遂げ、王座を守った。

久しぶりに敗戦の苦汁を味わったオグリだったが、吐き出したくなる苦味をグッと飲み干し、彼は、もう一段階上の闘争心に火を点けた。

「全員、打ち負かしてやる…。オレが一番強い!」馬がこんな事を考える訳が無い、と思うけど、この敗戦後の彼を見ると、そう思わざるを得ない。

まずはタマモクロスを…と燃え盛る芦毛のサラブレッドは、ジャパンカップで首を取る、と意気込むも、アメリカのペイザバトラー、そしてまたしてもタマモクロスに及ばず3着。これを見た私の頭の中では、馬房でクソッ!と怒るオグリの姿が思い浮かんだ。

立て続けに苦汁を飲まされたオグリの前に出された三杯目は、絶品の銘酒だった。第33回有馬記念。

「一戦限り」の条件で手綱を取った岡部幸雄に導かれ、遂に中央のGIレースを制覇。競馬なんて知らない、という人でも買うと言われる、有馬記念が初GIという事実が、持って生まれたスター性を如実に表している気がする。これで、オグリキャップの名前は、日本全国に広まった。

古馬になってからのオグリキャップ