【追憶の名馬面】サイレンススズカ

悲願のGIタイトルを手にして迎える秋。天皇賞秋へ向けた重要なステップレース、毎日王冠に彼は挑んだ。このレースには、血気盛んな若い駿馬も挑んでいた。

エルコンドルパサーとグラスワンダー。

マル外の怪物2騎VSサイレンススズカ。この対決に、心踊らないウマキチはいないだろう。GⅡにもかかわらず、その日府中へ詰めかけた観衆は13万人。結果はどうあれ、このレースを見逃すわけにはいかない。武蔵野の杜は、異様な熱気に包また。

例によってスズカは涼しげにハナへ。エルコンドルパサーと蛯名が一瞬突いたがすぐに控えた。グラスワンダーは、そのチョットした小競り合いを後方から凝視。マークさせたら鬼より怖い的場は、ジックリと牙を研いでいた。この日のスズカは、いつものように、徐々に引き離すのではなく、後ろを弄ぶかのような逃げだった。

4コーナー、的場が仕掛ける。外を捲るようにグラスワンダーが捕らえに出た。
蛯名はスズカの斜め後ろにエルコンドルパサーを付けさせ、気を伺う。

おっかないのに狙われているぞ。サイレンススズカ。大丈夫か?大観衆は叫び散らしたが、スズカはやっぱり余裕だった。気持ち程度の肩ムチを入れられた彼は、あっという間に突き放した。グラスは脱落、エルコンドルは必死に食らいつくも、坂の登りで体勢は決していた。

後に、国内外でチャンピオンに君臨する若駒に、影すら踏ませない。パサーもグラスも、スズカの前ではヒヨッコに過ぎなかった。

彼を止める者は誰もいない。強いて言うなら、武くらいか?いや、誰よりもスズカのスピードを愛する武が、止めるわけはない。気の向くまま、スズカを駆けさせるだろう…。

1998年11月1日。第118回天皇賞秋。この日は、秋の柔らかな陽射しが降り注ぎ、やや靄がかっていた。サイレンススズカは1枠1番。枠順という運気も、彼に味方した。

一番最後に馬場へ入るスズカ。すぐには駆け出さなかった。外埒沿いを、ゆっくりと並足で流す。その姿は、今見ている光景を愛でているようだった。最前列で見守るファンは、手を出せば届きそうな位置にいる彼を、必死にファインダーの中へ収めた。

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