追憶の名馬面【スペシャルウィーク】第1話「ライバル」

3月8日。スペシャルウィークの姿は中山にあった。皐月賞トライアル弥生賞に挑んだ彼の前に、2頭のライバルが、満を持して登場する。

セイウンスカイとキングヘイロー。

皐月賞、ダービーと3強を形成するライバル2騎と、ここで初めて相見えた。

キングヘイロー、セイウンスカイ、そしてエルコンドルパサーとグラスワンダー。

役者は揃った。このライバル達を相手に、果たしてスペシャルウィークは、どの様な戦い振りを見せるのか?更に彼の姿を追って行こう。

デビュー以来、全て1番人気に支持されてきたスペシャルウィークだったが、ここではキングヘイローに、その座を譲っている。スペシャルウィークも良血だが、キングヘイローは桁違いの良血。父は欧州の至宝と言われたダンシングブレーヴ、母のグッバイヘイローは、ケンタッキーオークスなどアメリカでGI7勝を挙げた名牝だった。

しかし、蓋を開けてみると、4コーナー付近から捲ったスペシャルが、逃げるセイウンスカイと徳吉をゴール前で差し切りV。キングヘイローは、この2頭から、やや離された3着に終わった。フジテレビのアナウンサー、塩原恒夫が言う。

如月、弥生を制して皐月は見えたか!

ダービーどころか、もしかしたら三冠も…。
彼の背中に乗せられた夢は、クラシック本番が近づくにつれ、大きくなっていった。

4月19日。第58回皐月賞。
最も速い馬が勝つ。と言われる一冠目、スペシャルウィークは、定位置の一番人気に返り咲いた。枠順は8枠18番。結果的にはこの大外枠があっけなく三冠の夢を打ち壊すことになった。

コウエイテンカイチと熊沢の逃げでレースは始まった。徳吉から横山典弘に替わったセイウンスカイは、逃げずに番手からのレース。スペシャルウィークは、例によって後方で脚を溜めた3〜4コーナー。桃色の帽子が前方目掛けて浮上を開始。この馬に大外枠は関係ない。直線でスパッと差し切る姿を想像したファンの眼の前に繰り広げられた光景は、白い馬の逃走劇だった。

勝ったのはセイウンスカイ。彼が活躍する前に、父のシェリフズスターは行方不明になった。この孝行息子の走りを、スタリオンステーションで聞けなかった父の無念を考えると、私は悲しい気持ちになってしまう。例え、サラブレッドが母子家庭であるとしてもだ。

スペシャルウィークは、懸命に伸び脚を繰り出したが、キングヘイローにも及ばず3着に敗れた。敗因は、仮柵を外したことにより内側に出来たグリーンベルト。流石のスペシャルウィークも、大外枠からでは、ここをキッチリ通ったセイウンスカイを捕らえることは出来なかった。

故に、決して力負けによる敗戦ではない。三冠という夢は破れたが、陣営は前を向きダービーを目指した。

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