【追憶の名馬面】スペシャルウィーク 最終話「最後の宿敵」

武が鞭を入れる。しかしどうした、相棒の脚色が悪い。伸びあぐねるスペシャルウィークを、金色のワンダーホースが、簡単に交わして行く。的場の手は殆ど動いていない。

もう言葉は要らないのか!

マッチレースを期待し、直線は無音放送のシナリオを描いたグランプリのストーリーテラー、杉本清の叫びは、スペシャルウィークに届かなかった。3馬身差。決定的な差を付けてグランプリを制したのはグラスワンダー。的場は、例によってガッツポーズを見せず、優しく相棒を労った。あの天皇賞の時と同じ様に。

阪神大賞典から、この宝塚記念まで、強豪にピタリとマークされる厳しい競馬に耐え抜いてきたスペシャルウィークだったが、遂に屈してしまった。

競り合うことも、影を踏むことも出来なかった敗戦を受けて、陣営は海外遠征の取り止め、秋は国内戦に専念する、と発表。夢に見た凱旋門は、泡沫の如く消え去った。

秋。グラスワンダーに借りを返す為には、一つの傷も許されない。まずは天皇賞秋を目指し、スペシャルウィークは、京都大賞典に挑んだ。

相手関係から見ても、ほぼ確実に決めると見られたが、彼はここで星を落とした。7着。デビュー来、全て3着以内の成績を上げていた馬が、まさかの惨敗。競馬に絶対はない、という格言がのしかかり、打倒グラスワンダーの目標がボヤけ始めた。

このまま、ボロボロになって去って行くのか…。

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