追憶の名馬面・エガオヲミセテ

「うちはパン屋です。餅と蛸が食べたいなら、市場にでも行ってください。あと、このロバはメンタだ。」

パン屋の親父は、パートナーであるロバに水を与えると、ノンビリ去って行った。

ロバのパン屋ってか…ナンデヤネン!

奇妙なイントネーションの、エセ関西弁を叫び、男はガックリとうな垂れ、途方に暮れた。夕日に向かってトボトボと、影を伸ばしながら歩いている時、急に旅に出よう!と思い立った。ここでは、皆、俺の事をゴマスリ男と煙たがる。こんな人情もクソもない街、コッチから願い下げだ!馬鹿野郎!

全く勝手な動機で、男はフランスへ旅立った。おフランスでも、ゴマを擦り生きようと思っていたが、異国の空気は、腐った男の性格を変えた。異国で改心したゴマスリ男は、森林保護の為に、ひたすら汗を流し、木を植え続けた。行政から怒られそうになった時は、ゴマを擦って取り繕い、また木を植えた。男の姿を見た、村の長が、男に新たな愛称を与えた。木を植えた男。後に、フランスで一番有名な男になるのだが、苗木を愛でる男は、まだその事を知らない…。

この稚拙な文中には、実際に競馬場で走っていた馬の名前が、盛り込まれています。普通、馬の名前を繋ぎ合わせて文章を作る、という事は、誰もやらないでしょうし、仮にやろうと思っても、昨今の小洒落た名前では、なかなか難しい作業です。しかし、小田切有一オーナーの所有馬なら、その難しい作業も、容易く出来てしまいます。氏が愛馬に与える名前は、英語やフランス語の意味が美しかったり、響きがカッコイイ言葉ではなく、読んでクスッと笑ってしまうギャグ的な名前から、古き良き日本の風景にちなんだ名前ばかりです。私は、小田切オーナーの事を、競馬界で一番オモロイホースマン、と思っています。