【追憶の名馬面】ジャングルポケット
ダービー馬というタイトルを獲得したジャングルポケットは、古馬の重賞札幌記念に挑んだ。初勝利と初重賞制覇を遂げた北の大地に凱旋した彼を、ファンは1番人気に支持した。
しかし結果は、蛯名正義を背にした同い年のエアエミネムに及ばず3着。故郷に錦を飾ることが出来なかったジャングルは、秋のトライアル戦を使わず、ぶっつけ本番で最後の一冠菊花賞に出走する。異例のローテーションだが彼はダービー馬。ローテなんぞでゴチャゴチャ言う馬ではないと信じたファンは、やはりジャングルポケットを1番人気に支持した。
マイネルデスポットと太宰啓介が、一世一代の大逃げを打った。淀の菊舞台で逃げ戦法を取ってきた彼らを見て、そう言えばスティールキャストなんていう馬がいたな…と、私は思い出していた。しかし、スティールとは違い、デスポット太宰の脚は、4角を回っても衰えない。
お。太宰やりやがったな!
味のある騎手が日向へ出ようとした時、外からサンデーサイレンスと瓜二つの駿馬が、その光景を屠った。
最後に現れた最強の男、マンハッタンカフェと蛯名正義が、史上最もハイレベルと評された2001年クラシック戦線を締め、彼らの青春時代は幕を閉じた。
一方、この物語の主人公であるダービー馬は、直線では追い上げるシーンを見せてくれたが、前半で折り合いを欠いたツケが回って、伸び脚が鈍り4着。
ゆっくり走って、最後に暴走しよう。菊花賞。という、交通安全運動の標語的な走りを、暴れん坊の彼は、遂行することが出来なかった。
クラシック戦線を走り終えたジャングルポケットの背中から、角田晃一が降りたのは、この菊花賞の後だった。それは、フジキセキの幻想が完全に晴れた。ということになるが、何故か一抹の寂しさも漂っていた。
11月25日。
晩秋の府中で開催される世界戦、第21回ジャパンカップに彼は挑んだ。古馬とは対戦済みとはいえ今回はGⅠ。雲の上にいる様な先達が相手である。中でも、年間無敗、GⅠ5勝を含む重賞8連勝という奇天烈な記録を打ち立てた王者テイエムオペラオーが血気盛んな彼の前に立ちはだかった。
角田に代わって手綱を握るのはフランスの名手オリビエ・ペリエ。日本でもお馴染みのトップジョッキーを背に、ジャングルポケットは世界チャンピオンを目指して馬場へ飛び出した。
ティンボロア、ウィズアンティシペイションの海外馬2騎がレースを引っ張る展開。オリビエは、内側の絶好位に陣取り進むオペラオーの背後に、ジャングルポケットを誘導した。
このまま静かに進み、終いの決め手勝負になる。と予想された流れは、向こう正面で様相が一転した。黄色いシャドーロールがトレードマークだったトゥザヴィクトリー。馬乗りの天才、四位洋文の意表を突いた浮上で、何かが起こる予感が晩秋の府中に漂い始めた。
直線に入る。馬場の真ん中を、王者が堂々と抜け出す。坂を登る頃、番手以降を完全に振り払い、ルドルフ越えの快挙がハッキリと現実として見えた。
その時。オリビエの右腕が天高く掲げられた。一発、二発と荒々しい鞭が入れられるたびに、鞍下の荒々しいダービー馬は、グングンと伸びる。
坂を登り、二頭が抜け出した。一頭分、間を開けて競り合う両者。若手の和田がガムシャラに追えば、オリビエはまた鞭を入れる。鼻面を合わせてゴールへ流れ込む、と思われたが、勝敗はアッサリと決した。
ガリガリ君とカレーうどんが好きなフランス人、オリビエ・ペリエが、ド派手な喜びのアクションを見せる。
再び府中の2400mで栄光を掴んだジャングルポケット。あの日と同じ様に、逆回りの並足で、ファンの待つスタンド前へ戻って来たが、叫びは無かった。その姿は、勝って当然。という自信に満ち溢れた王者らしい姿だった。
オペラオー撃破。世代交代の導火線に火を点けたジャングルポケットは、2001年の年度代表馬に選出され、時代のトップに君臨した。