未完の制度「エージェント制度問題」が若手騎手に与える影響とは?

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昨年2015年9月に、男・藤田の愛称で親しまれた元騎手の藤田伸二が電撃引退して世間を騒がせたが、その引退理由の一つとして本人があげているのが「エージェント制度の問題」である。エージェント制度は、2006年4月にJRAが導入した騎乗依頼仲介者制度だ。仲介を務めるのは主として競馬専門紙の記者やスポーツ新聞で競馬担当の記者などといった競馬マスコミに関わる人物が中心である。つまり、厩舎に出入りすることが許され、騎手との接点を持っている人物がエージェントとなっていることが大半である。

エージェント制度の誕生

エージェント制度が出来る前は、どこの厩舎にも属さないフリーの騎手はレースで自分が騎乗する馬を調教師や馬主に直接交渉を行うことで確保する必要があった。そのため、騎乗依頼の処理に忙殺されることも多く、レースの騎乗に専念することが難しくなるといった傾向にあった。そこで、フリーの騎手がレースに集中したいという想いから競馬専門紙の記者に仲介を依頼したのがエージェント制度誕生のきっかけとなったのだ。以降、フリーの騎手が増加するのに伴い仲介者に依頼をすることが増えたことと、一部の騎手と仲介者でやり取りする手数料が高額になっていることが問題となってきたため、いよいよJRAが追認する形となった。現在、騎手側の代理人の立場であることがJRAの定めるエージェントの定義となっていて、報酬は騎手がレースで獲得する賞金から支払われている。ただし、最近では調教師がエージェントに騎手を探すことを依頼するケースも増えてきていて、さらにエージェント制度の重要度はどんどん増してきている。

エージェント制度のメリットは?若手騎手への影響は?

エージェント制度の最大のメリットは、「騎手がレースに専念できる」ということである。調教師や馬主と交渉を進める必要が無くなるため、しがらみにとらわれずに騎乗馬を決めることが出来る。そのため、強い競走馬には腕のいい騎手が騎乗することが原則化されるとも言える。メリットの多い制度ではあるのだが、エージェントの影響力が大きすぎるという問題が生まれてくる。かつて一人の仲介者が担当できる騎手は三人までと定められていたが、仲介者同士がグループを組むこともあるため、制限を設けてもあまり意味を持たないことが問題視されていた。そのため、2012年からは一人の仲介者が担当するのは三人の騎手と減量騎手一人までとし、グループを組むことや代理を立てる行為を禁止している。

減量騎手とは、JRAでは騎手免許を取得して3年未満、100勝以下の若手騎手を指す。競争経験が浅く、技術も未熟な若手騎手が経験豊富なベテラン騎手と同じレースで競うために与えられている減量措置である。2012年の法改正により、若手騎手がエージェントと契約しやすくなったともいえるが、依然として力のあるエージェントが有力馬を特定の騎手に騎乗依頼するケースが多く、もはや勝利はエージェント次第だと言っても過言ではない。騎手としての腕の良し悪しに関わらず、力のあるエージェントが付けば有力馬に騎乗することが出来るため、勝利数が増え次の騎乗依頼も来ることに繋がり、一定の騎手に有力馬が集中することになってくる。力のある騎手でもエージェントに恵まれなければ勝ち鞍も増やすことが出来ないというのが現状であり、引退した藤田騎手こそまさに良い例ではないだろうか。

このような現状が続いているので、若手騎手は騎手としての腕を磨くのではなく、良いエージェントを確保するためにどうすればいいのかということを考えるようになってくる。騎手としての腕を磨くことよりも、良いエージェントをつけてもらえるようになることが勝利への一番の近道であると思う若手騎手が出てきてもおかしくないだろう。このような状態が続けば競馬は全くドラマ性のないつまらないものとなってしまいかねない。エージェント制度が便利な制度であることは間違いないが、まだまだ完璧な制度ではなく色々と問題点が山積みな未完成な制度なのである。それら問題点を放っておくと日本人騎手のレベルが落ちるだけでなく、日本の競馬のエンターテイメント性もどんどん低くなっていくことになるだろう。若手騎手や今後の競馬界のためにも早めに対策をしてもらいたいところである。