近代競馬が誕生して150年。当時の競馬は政界、財界、あるいは軍や皇室、国賓などの上流階級のための催しとして行われ、紳士淑女の集う場所とされていた。馬券の購入も1人1枚限り、なんて時代もあったようだ。それがどうだろう、今では自宅にいながらレースが見れて、スマホという便利な道具で財力の許す限り幾らでも購入ができてしまう時代である。150年でこうまで時代は変わるのだなとつくづく感心させられる。
今は一歩も外へ出ずに馬券を親指1つで買える便利な時代である。しかし、そんな時代になっても場外馬券売り場、いわゆるウインズと呼ばれる場所は多くの競馬ファンで賑わっている。まぁ賑わっているとは言ってもかつての賑わいに比べたらだいぶ落ち着いた方ではあるが…。
家から一歩も出ずにスマホで馬券が買える時代、それでも”ウインズ”へ行く理由って?
ちょうどエアグルーヴが牝馬として26年ぶりに年度代表馬に選出された20年前頃だろうか。90年代前半のピーク時とまでは言わないが、場外馬券売り場はまだまだ混雑していた記憶がある。今でもその名残でアナログ派と呼ばれる人たちはPATには目もくれず、場外で競馬を毎週楽しんでいる。決して時代に遅れているわけではなく、そういう楽しみ方もアリだと言う事だ。現に、スマホでも購入できる状態にありながらあえてウインズに来ているファンもたくさんいる。「なぜ?」と疑問に思う人もいるかもしれないが、場外は場外でそれなりに良さがある。難しく考える必要はない。
しかしこの場外の雰囲気というのがまた独特である。まさに鉄火場という雰囲気で、ワンカップ片手に競馬新聞といったイメージそのままの昔ながらの競馬ファン層が未だに多く見られる。PATでは購入や払い戻しは全て画面上の数字でのやり取りになるが、ここでは全て現金だ。まぁ、同じ現金には変わりないのだがダイレクトに手に取るキャッシュというのはやはり画面上の数字とは明らかな違いを感じる。自動払戻機から出てきた払戻金を手にした時の感覚はPATでは味わえないものがあり、この感覚が堪らないと言うのも頷ける。
しかしやはりPATの便利さは捨てがたく、私個人も実際に購入はスマホやパソコンから購入することがほとんどである。それでも定期的に場外で馬券を買いに行きたくなる。ウインズへ行くと毎週の様に繰り出していた若き頃を思い出し、懐かしさを覚える。しかし、ただ懐かしいから行くのではなく、やはり楽しいから行くのである。ウインズの面白さというのはそこに来る人々の人生が垣間見えるから面白いのだと思う。
場外は自宅と違いたくさんの人がおり、レース時にはたくさんの掛け声があちらこちらから聞こえてくる。買っている騎手の名前、「そのまま!!」「差せ!差せぇぇ!!」といった声はお決まりだ。レース後には目を光らせながらスクリーンの中の騎手に向かって「◯◯!ありがとぉおーー!!」と大声で感謝するおじさんがいたり、レースが終わった瞬間に「わあああーー」と泣き出すおばあさんなど、色々な人々の人生を見ることができるのもウインズならではだ。
PATで1人でゆっくり競馬を楽しむ休日も良いが、ウインズでコアな競馬ファンと一緒に盛り上がって競馬を楽しむのも、やはり堪らなく面白いのだ。