これほど運に恵まれない馬も珍しいのではないだろうか。
ダンスディレクターは今年と昨年のシルクロードステークスを連覇した馬だが、重賞勝利はこの2つだけ。この馬の実力を知るものにとっては現状の成績は意外としか言いようのないものだろう。その差し脚はG1をいつ勝利してもおかしくないものであるにも関わらず、G1への出走は御歳7歳にして昨年のスプリンターズSただ一度のみ。そこでも不利を受けて15着に終わってしまった。
ダンスディレクターにとっての最大の敵は自分自身だった。G1への出走機会すら恵まれなかったのはその体質の弱さにある。昨年の高松宮記念は直前に筋肉痛を発症し回避、シルクロードS連覇後の今年こそはと意気込んだ所で今度は左第一指骨剥離骨折を発症してしまった。奇しくも復帰レースは同じくセントウルSとなったが、昨年はそこから復調まで時間がかかりシルクロードSに至るまでは本調子と言いきれない走りだった。
しかし今年は前走のセントウルSで休養明けいきなりの3着と順調な滑り出しを見せた。優勝後立て続けに故障したダンスディレクターにとっては走りすぎた後の反動もまた心配であり、前走3着というのは前哨戦としては最高の仕上げとも言える。
ダンスディレクターは名牝系スターロッチに繋がる血統背景を持ち、ダンスディレクターの祖母スカラシップは93年の日本ダービー馬ウイニングチケットの全妹にあたり、ダンスディレクターとは大伯父の関係になる。昨年のセントウルSよりも走破時計、上がりともに量化してきており、順調度で言えば昨年の比ではなく今年のほうが上だろう。
ここまで溜めに溜めた鬱憤を、血統の底力と共に炸裂させてもらいたいと願うのはオールドファンだからの一言で片付けられないダンスディレクターの可能性を感じざるを得ない。