【追憶の名馬面】アグネスフライト - 2/3

前回からの続き

先に、抜け出したのはエアシャカールと武。しかし、内へ内へとササる暴れん坊は、天才の手を煩わせた。必死に矯正する武を目掛けて、外から一頭の馬が、ぶっ飛んで来た。

アグネスフライトと河内洋!

捻くれる相棒を必死に宥めんとするコンビとは対照的に、フライトと河内は真っ直ぐに、府中の直線を駆け抜ける。豊が気付いた。馬体を併せにかかる。河内とフライトは、それを真っ向から受け止め、競り合いに挑んだ。

アグネスか!エアか!河内か!豊か!

ウイニングポストを迎える瞬間まで続いた死闘の結果は、馬上にいた男達以外には分からなかった。

河内が豊に声を掛ける。

「どや?豊。」

兄弟子に問いかけられた弟弟子は、

「おめでとうございます。」

と答えた。

2度目の1コーナーを迎える前に、空へ向かって、右手を大きく掲げたのは河内だった。

栄光を手にしたアグネスフライトと河内

念願のダービー制覇。それも祖母の代から手綱を取り続けてきた名牝達の血が流れる駿馬と共に掴んだタイトルだけに、クールな男も、感情を抑えることが出来なかった。ただ一頭、芝コースを逆回りで帰って来た彼らを待っていたのは、スタンドからの祝福の叫びだった。

その瞬間、競馬場にいた全ての人が河内の名を叫び、彼もまた何度も手を掲げ、それに応えた。

ダービー馬として迎えた秋。イギリス遠征から帰って来たエアシャカールと再び、相見えた神戸新聞杯は、共にフサイチソニックにやられ、星を落とす結果でした。二冠を目指した菊花賞は、1.9倍の圧倒的な支持を集めるも5着。勝ったのはエアシャカールだった。

「頭の中を見てやりたい」と、神戸新聞杯で怒った天才は、無理に御するのではなく、その荒っぽい性格を利用して、シャカールを二冠馬へ導く、これぞまさに、という騎乗振りを我々に見せつけました。

7cmで敗れたダービーを持ち出し、一部の人々は「準三冠馬」「限りなく三冠馬に近い二冠馬」などという、センスの欠片もない愛称をエアシャカールに贈りました。

エアシャカールはどこから見ても立派な二冠馬で、ダービーは負けている。ダービーを勝ったのはアグネスフライトだ!と、私は叫びたい。

クラシック戦線を走り終えると、若駒達は、猛者が集う古馬の世界へ放り込まれる。アグネスフライトが、世代の頂点として初めて挑んだ古馬戦は、世界の猛者が集結した第20回ジャパンカップ。王者の進軍を続けるテイエムオペラオー、その首を狙うメイショウドトウやステイゴールド、シェイクが送り込んだファンタスティックライト、といった強豪の争いの中に、彼の姿はなかった。13着。惨敗だった。同じくこのレースに挑んだ、エアシャカール、イーグルカフェ、シルクプリマドンナといった同期達も惨敗。下から4位を、2000年世代が占める、ほろ苦い結果でした。

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