2016年11月13日に京都競馬場で行われる第41回エリザベス女王杯。今回も期待が集まる一戦になりそうだ。注目の出場馬としてはマリアライトやミッキークイーンなど一線級の牝馬が揃った。そんな中でも少し注目度の落ちる穴馬に目をつけて今回は書いていきたい。
距離克服が鍵となる上がり馬ヒルノマテーラ
競走馬の成長力とは、時として人知を超える時がある。それこそ数ヶ月前は平凡な競走馬だったのが、あれよあれよと勝利を積み重ねて表舞台に姿を現すこともある。滅多にあることではないが、それでも年に数頭は見られる競馬の醍醐味だ。そんな醍醐味を体現してくれている一頭が、今回エリザベス女王杯に出走をしてくるヒルノマテーラである。
ヒルノマテーラも今年が始まった当初は、500万下条件を勝ちきれないどこにでもいる平凡なサラブレッドだった。ところが、2月末に500万下を卒業したかと思えば、続く1000万条件で3着となり、その次には1000万下を突破。そして準OPを4着した後に出走をした重賞マーメイドSでは、軽量51㎏を活かして4角11番手から2着に追い込んで見せたのだ。
半年前まで一年以上500万下を勝てなかった馬が、気がつけばいきなりのオープン馬という大変身である。そして一旦休養に入ると、復帰初戦のカシオペアSでは牡馬を相手に優勝。マーメイドSが軽量に恵まれたフロックではないことを見せつけてくれた。
この大変身の裏には、血統の要素が多分に含まれていると思われる。父マンハッタンカフェも、3歳の夏に急成長をして500万下、1000万下を連勝すると、セントライト記念4着の後に菊花賞を、そして有馬記念をも優勝してしまったのだ。非常によく似た軌跡を描いており、ヒルノマテーラも上昇気流に乗ったと見て良いだろう。
ヒルノマテーラを管理する昆貢調教師はこれまで中央重賞では10勝をあげているが、複数勝利した3頭の馬によって構成されている。
ヒルノダムール2勝・ローレルゲレイロ4勝ディープスカイ4勝と特定の馬主の馬をまとめて面倒を見るタイプの調教師と言う事がこの数字からも推察できるが、現在20の馬房を回している39頭の内の9頭が『株ヒルノ』の所有馬。昆貢調教師と『株ヒルノ』の関係は非常に良好で、エリザベス女王杯でも全て調教師を信頼しているオーナーサイドが特に注文をつけることがない。
肝心のヒルノマテーラはここをメイチに仕上げてくるだろう。この馬を侮っていると痛い目に遭う可能性が高い。確かに追い込み馬なのである程度前が流れてくれないと展開の利は見込めないが、スローペースになったらその時の騎乗方法も十分想定済。策が全くないままGⅠレースに騎乗するジョッキーはいない。
フェブラリーSでコパノリッキーが16番人気のシンガリ人気だった時、田辺騎手は逃げ馬の後ろにピッタリマークし、後ろからプレッシャーをかけ逃げ馬を潰し、ロングスパートで快勝した。16番人気でも騎手は無策ではないのだ。
ヒルノマテーラの1番の魅力は爆発力満点の豪快な末脚。ただし、ヒルノマテーラは24戦して一度も2000m超えるレースに出走をしたことが無い。今回は初距離の2200mなので、これまでのようなレースが出来るかは未知数だ。距離さえ克服できれば、ミッキークイーンにも劣らない爆発的な末脚で一刀両断も夢ではない。果たして四位騎手がどの様に乗りこなすのかが非常に楽しみだ。
トップスピードのシュンドルボン
シュンドルボンは2011年生まれの5歳。現在までの通算成績としては25戦6勝と言った成績である。昨年のエリザベス女王杯でのシュンドルボンはトップスピードで質の高い馬であるといった評価であったのだが、反面ロングスパート気味になってくると少し威力が下がってしまい、2000mを超えたレースになると少し不安が残る一面がある。
そんなシュンドルボンの11月7日に行われた調教では南ウッド単走で5F[69.2-39.2-12.2]といった結果であった。直線で追い出された後は反応よくストライドを大きくしたので今回のレースではなかなか良い印象であった。
矢野調教師もインタビューでは、前走はスローであったために届かなかったのだが中間から攻めることで動きもしっかりとしていると答えている。
社台ファーム由来の堅実血統シングウィズジョイ
社台には著名な牝系がいくつかある。代表的なものの一つがダイナカール系でエアグルーヴからはルーラーシップやアドマイヤグルーヴ、そこからさらにドゥラメンテを輩出している牝系だ。
更にはダイワスカーレットやダイワメジャーを輩出したスカーレットブーケもある。世界中から、それこそキラ星の如き良血馬を輸入している社台ファームは、ともすれば種牡馬に注目が集まりがちだが、本当の凄さは肌馬にある。そんな社台ファーム由来の名門牝系出身なのが、シングウィズジョイだ。
シングウィズジョイは曾祖母が重賞勝ち馬、祖母が重賞連対馬で、母もオープンクラスまで登り詰めており、確かに大レースこそ制してはいないが、堅実に好走をしてくれるのがこの牝系の特徴とも言える。
中でもシングウィズジョイは抜けた成績を見せていると言っても良い。すでにフローラステークスとターコイズステークスを優勝し、曾祖母以来の重賞勝者となった
。
また、シングウィズジョイの父マンハッタンカフェは、この世代でルージュバッグ、クイーンズリングと重賞勝ち馬を輩出している当たり年。従来の堅実な牝系と合わさって意外な好走が連発しているのかもしれない。
シングウィズジョイは先行脚質で、大体2~3番手からレースを進めていく。京都競馬場の外回りは直線が長いが平坦なため、前半で楽に先行できた場合は残るケースが大いにある。血統を遡ればリアルシャダイやノーザンテーストの名前もあり、穴を開けてくれる可能性に期待せざるを得ない
穴馬に勝ち目はあるか?
いよいよ迫ってきたエリザベス女王杯2016。宝塚記念を勝ってきた昨年覇者のマリアライトは絶対的な能力はやはり一番だが安定性に欠ける部分があり、ミッキークイーンは脚部不安で前哨戦を使えず本番へ直行という不本意な入りとなった。有力馬に関しても絶対的とは言えず、充分に穴馬の活躍も期待ができるだろう。