マイルCSをミッキーアイルで制した浜中俊騎手だったが勝利と引き換えに待っていた代償は余りにも大きいものだった。今週も重賞で上位人気馬に騎乗予定だっただけに非常に勿体ないが、問題は騎乗停止の期間が3週間と長い事。
審議の制度が変わっていなかったら間違いなく降着になっていた。逃げ馬のミッキーアイルが決勝線手前で大きく左によれた。この影響で4頭の馬が進路を塞がれた形になってしまった。内から伸びて来たサトノアラジンも進路が塞がり抜け出せず、デイサイファの武豊騎手は一瞬立ち上がる程の不利を受けた。
何とも華やかなGⅠレースの結末は後味の悪い物になってしまった。レース後の浜中騎手に笑顔はなかった。最後の直線で馬のコントロールを失った。GⅠを勝つ事も大事だが、騎乗停止処分を食らってしまっては騎手としての体裁も保てず、何よりミッキーアイルの勝利の価値を下げてしまうのも紛れもない事実。
3週間実戦で乗れないのは非常に痛い。浜中騎手に騎乗依頼する予定だった新馬も他のジョッキーが騎乗する事になる。その騎手が良いパフォーマンスを見せれば、その馬はその騎手が主戦騎手になり浜中騎手は1頭有力馬を失う事になる。来年のクラシック戦線以降に響いてくるこの時期の騎乗停止となった。
騎乗停止は通常1週間、長くて2週間というのがほとんど。騎乗停止3週間はかなり重い制裁措置。それでも降着には至らなかった。降着の基準はルール上は明確であり『「その走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していた」と判断した場合、加害馬は被害馬の後ろに降着となります。』と規定されている。今回で言えばミッキーアイルの斜行がなかったとしても被害馬ネオリアリズム、ダノンシャーク、サトノアラジン、ディサイファの4頭がミッキーアイルに先着することはなかったという裁決が下ったということになる。
確かにミッキーアイルが斜行せず直進していたとしたら結果的に距離も得をすることとなり、実際よりも差を広げての勝利となっていた可能性は否めない。問題は被害馬が加害馬に先着するか否かしか考慮に入っていないところにある。
勝負事である以上勝つに越したことはないが、負けた場合でも順位が1つでも上がれば賞金は増える。今回の被害馬も3頭は掲示板に載ったが、極めて大きな不利を受けたディサイファのみ10着と大きく後退してしまった。
「走行妨害」がなくともミッキーアイルの勝利は揺るがないという仮定を受け入れたとしても、ならばディサイファは「走行妨害」がなくとも10着だったのだろうか?その検証すら必要が無く、不利を受けた者だけが泣き寝入りをしなければいけないのが現在の降着ルールだ。接触時点で上位争いをしていた残りの3頭と比べ脚色が鈍っていたとは言い難い。
また、言い換えれば3週間の騎乗停止と引き換えにGⅠの巨額な賞金を手にしたとも言える。3週間レースに出走すればマイルCS1勝分の賞金を稼げるとは言い切れない。合理的に現在のような裁定を解釈するなら、あの場面で斜行をしないのは「勝つ気のない騎手」という見方をされてもおかしくない。3週間の騎乗停止とGⅠ勝利、天秤にかけたときに後者を選択する騎手のことを必ずしも責められるだろうか?
審議を入れ騎手の騎乗停止という裁定を下す以上、競馬にタラレバは禁物の法則からは離れてしまっている。アンバランスなルールの是正が至急望まれる。