【スプリンターズS】ビッグアーサー、復活の壁は高い

昨年の高松宮記念の勝ち馬で、前走の香港スプリント(10着)から休養しているビッグアーサー(牡6、藤岡健一厩舎)が、約9ヶ月ぶりにターフへ復帰します。前走が香港遠征でしたので、国内では実に1年ぶりとなります。

今年2017年の始動戦として予定していた春の高松宮記念を左前脚の筋挫傷で回避し、夏馬は休養にあてたビッグアーサー。9月10日に阪神競馬場で開催されたセントウルステークスを復帰戦として予定しておりましたが、こちらも左前脚の蹄球部に傷みが出て回避となりました。

昨年は高松宮記念とセントウルステークスを制し重賞2連勝を果たしましたが、続くスプリンターズステークスでは1.8倍の圧倒的1番人気に支持されるも前が詰まってまさかの12着敗退。続く香港スプリントでも両サイドから交わされ10着に敗退。2戦連続大敗しており陣営としては何とか悪い流れを断ち切りたいところですが、度重なる脚部不安で復帰のタイミングを逃し続け、ついに本番のスプリンターズステークスまで一叩きもできずに来てしまいました。まともに走れば上位争いができる馬ですが、果たして状態がそこまで整っているのかどうかが何より気になるところです。

プロのアスリートでも怪我などで長期的に戦線を離脱してしまった場合、失われた運動能力を取り戻すにはそれ相応の時間がかかります。野生環境での淘汰を受けて進化してきたサラブレッドはいわば馬という生物の中のアスリート的存在とも言えます。しかし、そんなサラブレッドでも回復速度が低下速度より速いということは考え難いです。時間をかけて徐々に状態を取り戻していくしか方法はありません。

昨年は6ヶ月の休み明けで挑んだG2のセントウルステークスを優勝しているので鉄砲の実績はありますが、今回は9ヶ月の休み明けぶっつけでG1に挑戦とさらにハードルが上がっております。今年は相手に昨年の覇者レッドファルクス、そのレッドファルクスを高松宮記念で破ってG1初制覇を果たしたセイウンコウセイ、4連勝で重賞初制覇を果たした夏の上がり馬ダイアナヘイローなどがおり、出たとこ勝負で勝てるほど甘い相手ではありません。名スプリンターの父サクラバクシンオーのDNAを受け継いでいるとは言え、今回の舞台がいかに難しい舞台であるかは理解しておいた方が良いでしょう。

持ち味は積極的な先行策。ポイントは前へ付けれるかどうか?

香港スプリントではR.ムーア騎手とコンビを組みましたが、国内での主戦騎手は高松宮記念から手綱を握る福永祐一騎手です。昨年12着に敗れたスプリンターズステークス以来、実に1年ぶりの騎乗となります。昨年の騎乗については「敗因のなかに、馬に起因する要素は一切ない。」と自身が執筆するコラム「祐言実行」の中で本人も記しているように、高く評価できる騎乗内容とは言い難いものでした。このスプリンターズステークスで屈辱を晴らしたいところですが、果たして馬がその気持ちに応えれる状態にあるのかどうか。久々のコンビゆえに馬と騎手の気持ちが噛み合うかどうかもポイントとなりそうです。

勝った高松宮記念やセントウルステークスのレースで見せたような積極的な先行策がこの馬の持ち味の1つですが、前走の香港スプリントではやや出負けして中団列の外からの競馬となり、2走前の昨年のスプリンターズステークスでは好スタートを決めるも中団まで下げられてしまい、自分の競馬ができずに敗退してしまいました。平均からスローでコントロールされ、後半要素を問われるような競馬になってしまうと昨年と同じ失敗を繰り返すことになりかねません。ある程度流れた中でこそ良さが活かされるのなら自身で流れを作っていくくらいの積極性がほしいところですが、長期休み明けぶっつけで息が持つかなど、状態面の不安が拭いきれない以上は積極性に期待するのも難しくなってきます。

人馬ともに屈辱を晴らしたい舞台ではありますが、休み明けで状態は不透明、騎手との折り合いの不安、展開面の不安など不安材料は多く、乗り越えるべき壁は高いです。ただ、ここを越えることができれば一気に復活ムードを作れます。サクラバクシンオー産駒期待の星で、完調であれば間違いなく実力はトップクラスのスプリンターであるビッグアーサー。高松宮記念をレコードVで制し、混沌とするスプリント界に新たなスターが誕生したと一時は期待された馬です。秋のG1シーズン開幕を告げる大舞台でスターは復活を果たせるのでしょうか?巻き返しに視線が集まります。