【追憶の名馬面】スペシャルウィーク 第2話「希望の光」

11月29日。第18回ジャパンカップ。小粒な面々の外国馬に対し、迎え撃つ国内勢は、各世代の最強達が揃った。

スペシャルウィークの背には岡部がいた。デビュー来のパートナーである武は、騎乗停止処分をくらい、乗ることが出来なかったのだ。ちなみにその時、武が騎乗していたのはアドマイヤベガという新馬だった。ダービーの神さんは、どうやら武のファンになったらしい。

世界のオカベと再び府中の2400mに挑んだスペシャルウィークは、前目でレースを展開した。直線、坂の下からスパートを開始したが、内へ僅かにヨレてしまう。たった数秒の蛇行もGⅠという大舞台では致命的なものになる。

岡部がスグに体勢を立て直し、自慢の末脚を改めて繰り出したが、届かず3着。もし、真っ直ぐ走っていれば、結果は分からなかったかも知れない。ヨレるスペシャルウィークの前方で、馬場のど真ん中を、真っ直ぐに駆け抜けたのはエルコンドルパサーだった。

共同通信杯で相見えるはずだった同期生は、府中の世界戦で、スペシャルウィークを屠り、ヨーロッパへ飛び立っていった。ダービー後は、どうも歯痒い結果しか残せなかった。しかし、世代の頂点から時代の頂点へ目指す戦いは、まだ始まったばかり。まずは国内を制圧し、海外。エルコンドルにフランスで借りを返す…。誰でもかかってくればいい。次なる夢が生まれた冬、彼の元へ悲しいニュースが飛び込んで来た。

12月15日。スペシャルウィークの生まれ故郷、日高大洋牧場で火災事故が発生した。火の手は、牧場にとって宝物である繁殖牝馬達を呑み込んだ。

この事故で、19頭の母馬達が命を落とした。その中には、キャンペンガールが遺した一人娘、オースミキャンディもいた。代々守り抜き、大切にしてきたシラオキの血が、牧場から消えてしまった。

全てを捧げ、昼夜問わず寄り添うホースマンにとって、馬は家族のような存在である。牧場のホースマン達は、家族を失った悲しさと悔しさに打ち拉がれた。

そんな暗闇を照らしてくれたのがスペシャルウィークだった。現代表で当時、同場のゼネラルマネジャーを務めていた小野田宏は、スペシャルウィークの事を話し合う時だけが、唯一希望に溢れていた時間だった、と語っている。

母に先立たれ、義母にも無下に扱われたあの仔馬が、自分達を鼓舞してくれる。

馬と人。言葉こそ通じないが、その間には、確かな縁が通じている、と私は思う。

自身の栄光、そして育ててくれた牧場の人々の想い。全てを背中に乗せて、スペシャルウィークは、次の戦いへ進んでいった。