【追憶の名馬面】シーザリオ
花風に乗って、テイエムチュラサンが出を伺うところへ、外からモンローブロンドが佐藤哲三に気合を入れられ競り掛けて行く。12.2-10.4と、ワープでもする様なラップタイムを刻んだ先頭2騎。その賑やかさにつられたのか、3番手グループにいたアドマイヤメガミ、デアリングハートもやや騒がしい走りを見せていた。
ラインクラフトはその後ろ。福永はガッチリと手綱を抑え、ここはメインステージやない!と、パートナーを諌めていた。
桜のティアラを目指し別の馬と奮闘する福永の背を、シーザリオは中団馬群の真っ只中で見ていた。このまま先行勢がガチャガチャとやり合えばスポットライトを独占出来る、抜群のポジショニングだった。
しかし、前を行く賑やかな少女達の脚色は衰えない。モンロー、チュラサン、デアリングの隊列は変わらないまま勝負所に差し掛かる。すぐ後ろにいたラインクラフトは外からカシマフラーに被され、一瞬進路を失ったが、モテる男は冷静に振る舞い、何事もなかったかのように外へ持ち出した。
最後の直線。ここまで花宴の音頭をとってきたモンローブロンドを、デアリングハートが一気に捕らえる。それを見た福永は絶妙なタイミングで、ラインクラフトにGOサインを出し、競り合いに持ち込んだ。
その後ろからシーザリオと吉田稔がスパート。公営ジョッキー特有の荒ぶる豪腕に追われ、青毛の少女も弾む様に加速する。
坂の上、ラインクラフトがデアリングハートを競り落とし先頭に立った。カメラがヒロインにならんとしている鹿毛の少女馬を映した時、外からシーザリオが割り込んで来た。
最後の最後まで、息つく間も与えなかったデッドヒートの結果はアタマ差、ラインクラフトと福永祐一に軍配が上がり、シーザリオは2着に敗れた。桜花賞馬となったラインクラフトは距離適性を考慮し、オークスではなくNHKマイルCに挑んだ。鞍上は福永。桜の女王は、マイル王を夢見る血気盛んな若い牡馬達を一蹴し、桜花賞→NHKマイルCという、変則二冠を達成。この道を競馬界に敷いた、あのパイオニアも驚く快挙を成し遂げた。
シーザリオは女王路線を歩み、第66回オークスの出走馬に名を連ねた。
敗れはしたが、終いの驚異的な追い上げを見せたスペシャルウィークの娘は、父も制した春の府中12Fの大舞台で1.5倍の圧倒的一番人気に支持された。
手綱を握るのは、福永祐一。4年の歳月を経て悔しさを晴らした彼に、競馬の神さんが次に課した課題は、オークスを勝って春を極めろ。だった。