【追憶の名馬面】シーザリオ

ポンッと好スタートを決めたエイシンテンダーがハナを奪取。ドスローの流れへ持ち込み、マイペースにレースを組み立てた。シーザリオは、手綱を抑えられ中団やや後ろ。4、5馬身前には、この年、トンデモナイ記録を打ち立てることになる武豊騎乗のエアメサイアがいた。

如何にも淑女然たる素振りで、静かに追走するメサイアに対し、少し喧しいシーザリオ。

共に名家の娘だが、馬場の上では正反対の性格。この辺りもまた、競馬の愉快さだと思う。シーザリオと同じ服色、同じ厩舎で、アメリカの名手、ケント・デザーモにエスコートされていたディアデラノビアは、もっと喧しかった。

欅前を過ぎても依然エイシンテンダー武幸四郎は快調な逃げ。このまま行けば、兄に続き、弟も父にGⅠのタイトルをプレゼント出来る良い走りだった。

テンダーが1馬身ほどリードを保ったまま、最後の直線。誰も脱落することなく、決め脚勝負の流れで、未知なる世界へ入った。

後続を最大限引きつけて幸四郎がスパートすると、エイシンサンディの娘は粘りのある末脚で、ジワリ、ジワリと引き離しにかかる。坂の下、馬場の真ん中を通り、逃げる弟を目掛けて兄貴のエアメサイアが来た。その外にいたディアデラノビアも賑やかに伸びる。

この3頭で決まる形になろうとした時、大外から真っ黒な馬が、例の弾むような脚で、伸びてきた。

残り200。エイシンテンダー懸命の二枚腰。そこへ鋭く突っ込んできたエアメサイア。武兄弟のワンツーで決まるかと思われたその刹那。溜めに溜め、限界ギリギリまで研ぎ澄ました鋭い脚を、一瞬だけ真っ黒な馬は繰り出した。そこがウイニングポストだった。

一冠目の桜花賞に続き、最後の最後まで決着のシーンが読めなかった好レースを制したシーザリオは、見事に66代目の樫の女王に就任し、激闘の春を締め括った。

父がダービーを制して7年後。優駿競走覇者のDNAを受け継いだ娘が、世代の女王に君臨した。

スペシャルウィークのファンだった人々は、歓喜に酔い痴れたことだろう。グラス、エルコン、キング、スカイよりも先に、スペシャルがクラシックホースの父になった!この事実を受け、最強馬は誰か?という議論が再び熱を帯びたのは、想像するに難くない。(憚りもなく言わせてもらう。やっぱりスペシャルがNo. 1だ!)

世代の女王に就任したシーザリオは、海の向こうへ視線を向けた。目指すは、アメリカ西海岸のハリウッド・パーク競馬場。ここで開催されるアメリカンオークスへの参戦を表明。冒頭で触れた、映画の街へ、日本代表として殴り込みに行く事になった。