【追憶の名馬面】スペシャルウィーク 最終話「最後の宿敵」
1999年。
古馬になったスペシャルウィークは、年明けの名物重賞、AJCCから始動した。シーキングザパールとアメリカ遠征へ挑んだ武に替わり、鞍上はフランスの名手、オリビエ・ペリエ。
馬場は良の発表だったが、風が吹き荒れ、雨が降る悪天候。しかし、更に逞しさを増したスペシャルウィークには、関係なかった。好位で立ち回り、直線でオリビエが軽く仕掛けると、別次元のパワーを見せつけ3馬身差の圧勝。王者を目指す、99年の幕が開いた。
続く阪神大賞典で、ようやく武とのコンビが復活。空はまたしても雨。叩きつけるように降る雨粒は、ターフを重馬場に変えてしまった。そんな厳しい条件が並ぶ中、昨年の天皇賞春を制した、メジロブライトが、彼らの前に立ちはだかった。この馬を倒さなければ、春の盾を手にすることはできない。
前走同様、前目で運ぶスペシャルウィーク。その後ろを、ピタリと河内のメジロブライトが付けていた。2周目バックストレッチ、武が股下から、チラリと後方を確認した。敵は一頭、兄弟子が乗るライアンの息子。標的を確認した天才は、スーッと静かに、スペシャルウィークを浮上させる。その後ろから、まるで影のように忍び寄るメジロブライト。河内の職人的な技術が垣間見得た瞬間だった。
4コーナーは、完全に2頭だけの世界。藤田のシルクジャスティス、小原のタマモイナズマあたりが僅かな抵抗を見せたが、迫るまでには至らなかった。
直線、内にスペシャルウィーク、外からメジロブライト。武が鞭を入れれば、河内も負けじと相棒を追う。しかし、弟弟子の乗るダービー馬は恐ろしいまでのしぶとさを見せつけた。半馬身位まで迫るがそこからが詰まらない。昨年、3200mの春の盾を制したメジロブライトを上回る底なしのスタミナを見せつけたスペシャルウィークは、永遠に詰まらない3/4馬身差を付けて勝利し、盾の舞台へ主役として進んだ。
5月2日、第119回天皇賞春。
年明けの2戦で逞しく進化した姿を見せたスペシャルウィークは、堂々と一番人気に推された。ダービーこそなかなか勝てないでいた武だったが、この天皇賞競走は、4連覇を含む6勝を挙げ、平成の盾男という愛称を持っていた。
パワーアップしたダービー馬と盾男のコンビ。
恐れるものなど、何もない。