【追憶の名馬面】スペシャルウィーク 最終話「最後の宿敵」
盾を制した後、陣営は、年内引退と宝塚記念後の海外遠征を発表した。夏の仁川から、フランスへ。彼の地では、自身を軽く負かして飛んで行った、エルコンドルパサーが待っている。
思い描く果てしない夢から靄がなくなり、ハッキリと現実として捉えられるところまで来たスペシャルウィークの前に最後のライバルが現れる。
アメリフローラの仔、グラスワンダー。前年の有馬記念で、古馬を一蹴した栗毛の怪物は、スナイパーの異名を持つ的場均を背に、春のグランプリに挑んできた。
胆振と日高で語られた「走る馬」同士が、いよいよ相見える。春競馬の締め括りに相応しい、グランプリのゲートが開いた。
8枠から飛び出した村本のニシノダイオーが、ダッシュを効かせてハナへ。柴田善臣のキングヘイロー、熊沢のステイゴールドが、やや押し気味に先団へ付けた。
スペシャルウィークは例によって、その先行勢のすぐ後ろという絶好位。武は手綱を弛ませ、相棒を気の向くままに走らせた。これが、本拠地関西での最後の一戦。世界へ羽ばたくためにも、無様な競馬は見せられない。
ふと後方を見ると、左斜め後ろに栗毛の馬体と、体を丸く縮ませ馬と一体化したスナイパーの姿があった。
背後ではなく、振り返れば嫌でも視界に入る位置。狙いを定めた時の的場ほど、厄介な騎手はいない。私は、この武と的場の陣形を見て、1993年の天皇賞春を思い出した。同じく大本命に推された武と白い名優の影になり、見事に討ち取った小さなステイヤーと的場。歴史は繰り返されるのか?
ニシノダイオーの脚色が鈍り始めた3コーナー中間付近。外から橙色の帽子が、軽やかに先頭へ躍り出た。天皇賞同様、早め抜け出しで完封する、王者の振る舞いをスペシャルウィークが見せようとした時、的場とグラスワンダーが動いた。
4コーナー出口では、もう完全に2頭の競馬だった。内にスペシャル、外にグラス。阪神大賞典のリプレイの様な体形で、両雄は最後の直線に入った。