【追憶の名馬面】スペシャルウィーク 最終話「最後の宿敵」

激動の競走馬生活を終えたスペシャルウィークは、中山と京都で引退式を行った。馬上で最後の手綱を取った武は、夢を叶えてくれた相棒について、こう語っている。

「今日の状態が一番良いですね。」

まだこの馬に乗っていたい。と密かに願う感情を、ギャグで吐露した天才と別れ、スペシャルウィークは、種牡馬としての生活を送るべく北海道へ旅立った。

父としての彼は、ターフで覇権を争ったライバル達を置き去りにし、名種牡馬の道を突き進んだ。

ヤマニンラファエルによる初勝利から始まり、シーザリオ、ブエナビスタといった女傑を送り出した。自身が敗れた菊花賞を、2014年に孝行息子のトーホウジャッカルが制覇したのは記憶に新しいところである。

芝だけではない。ダート界へ目を向ければ、ローマンレジェンドが、中央公営の砂上を席巻し、砂の王に君臨した。

もし、4頭のライバルがいなければ、少なくとも4つは、勲章を加えることが出来ただろう。そして、90年代最後の最強馬として、語り継がれていく事になったと思う。

しかし、セイウンスカイやグラスワンダー、エルコンドルパサーにキングヘイローらと競い合い、それを全力で負かそうとした時の彼の姿が、私は好きだ。なので、手にしたGIタイトルが4つでも、この馬をずっと覚えていてやりたい、と思える。

1995年に産まれた5頭の優駿達が紡いだ物語は、見る人によって主人公が異なるパラレルワールドの様な物語である。
グラスワンダーの方が強い!という意見もあれば、エルコンドルパサーは世界最強という叫びもある。ドラマならセイウンスカイには誰も敵わないし、強烈な個性を発揮したキングヘイローのキャラクター性は、4頭を軽く凌駕している。

誰が主人公でも面白い。こんな名作を、私はまだ本屋さんで見たことが無い。

スペシャルウィークとライバル達。彼らが私達に見せてくれた、特別な時間は、競馬が続く限り、色あせることは無いだろう。