【皐月賞2016回顧】優勝したディーマジェスティ・ダービーへ向け上積みも期待

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17日の中山競馬場では牡馬クラシック第一弾の皐月賞(G1)が開催された。心配された天気も悪化はせずに芝コースは良馬場で行うことができた。

18頭のフルゲートだからある程度の平均ペースで流れる可能性ももちろん頭に入ってはいたが、前半800メートル・45秒9の1000メートル通過が58秒4。同じ芝2000メートルの9レース、古馬1000万条件・鹿野山特別が800メートル・48秒1、1000メートル通過が60秒6である。全体の走破時計は鹿野山特別が2:00.1であり、皐月賞は1:57.9のレースレコード。こちらが思っていた以上に速く、そして息が入らない厳しいペースとなった。

このG1級のペースを演出した17着のリスペクトアースには上位に入線した馬たちと同じように称賛を送ってもいいのではないだろうか。非常に中身が濃い1冠目となった。

1着・ディーマジェスティ

8枠18番の大外枠からのスタートだったがモサッとした感じで出ていき好発の組と比べたら少し遅い形。ただ道中の折り合いは全く問題なしで、後方14番手のポジションを選択。このペースだから後方組には能力さえあれば届く可能性ももちろんあった。

直線は他馬が中山の急坂で脚が鈍りかけたところを、この馬だけは真一文字に駆け上がってきた。映像で見る限り、上がりは断トツのトップだと感じたがメンバー中2位の34秒0。これは予想以上に前が厳しく、苦しい流れとなり、先行集団の脚が止まりかけていたことを意味するかもしれない。

この日に限っては確かに展開の利はディーマジェスティにはあったかもしれないが、それと同時に豊富なスタミナや大舞台に必要な底力を見事なまでに証明してみせた。一瞬の切れやスピード面という意味ではおそらく戦前に3強とうたわれていた組や上位人気の一角であったエアスピネルのほうが上。

ただ、ディーマジェスティーには圧倒的な爆発力、底力を伝えるブライアンズタイムの血が母系に流れている。ブライアンズタイムの自身の産駒には94年の3冠馬・ナリタブライアンや菊花賞(G1)・有馬記念(G1)などを勝ったマヤノトップガン、皐月・ダービーの2冠馬・サニーブライアン、ウオッカの父であるダービー馬のタニノギムレットなどがいる。

年齢を重ねた2000年代半ばからは母父としての活躍が目立ち始め、フェブラリーステークス(G1)やジャパンカップダート(G1)などダートG1・9勝のエスポワールシチー、同じくダートでの交流G1・7勝を挙げたブルーコンコルド、天皇賞・春(G1)を勝ったビートブラックや菊花賞(G1)を制したスリーロールスなどを輩出。

つい先日もダービー卿CT(G3)でマジックタイムが重賞初制覇を挙げたが、この馬も母父がブライアンズタイムである。

ディーマジェスティの父である3冠馬・ディープインパクトを始め数々の名馬を輩出した世紀の大種牡馬・サンデーサイレンスや、昨年の2冠馬・ドゥラメンテの祖母になるG1・2勝馬エアグルーヴ、日本ダービー(G1)・ジャパンカップ(G1)を勝ったジャングルポケットの父のトニービンと並んで当時は種牡馬御三家と呼ばれたうちの1頭がこのブライアンズタイムであった。

サンデーサイレンスとの違いはスピードや瞬発力という点では見劣るが、大舞台に強い爆発力と底力、そして長く質の良い末脚を使う産駒が特徴的。ディーマジェスティを見ていると、間違いなく母系の影響が良い方向に出ていると感じる。前走の共同通信杯(G3)1着の時が上がり34秒9。未勝利戦で上がり33秒台の脚を使ってはいるが、本質的にはスタミナ豊富の持続性のある良い脚を使うタイプと見る。

近親に英国ダービー(G1)1着のジェネラスや、ステイヤーズステークス(G2)でも好走したエルノヴァがいる血統であり、祖母のシンコウエルメスの父がブライアンズタイムと似たタイプのスタミナと確かな底力を伝えるサドラーズウェルズ。

この先に続く、日本ダービー(G1)・菊花賞(G1)も距離的な心配はなく、むしろ歓迎する部類に入ると感じる。共同通信杯から皐月賞への直行組はこれで14年からイスラボニータ、ドゥラメンテに引き続き3年連続の皐月賞馬輩出となった。

ひと昔前までは弥生賞(G2)やスプリングステークス(G2)からというのが一般的であったが、時代に合わせてやはりベストなローテーションも変化しているのだろう。2月からムリをしてこなかった分、上昇度も十分見込める。

スローの瞬発力勝負になった時にこの日の3強や他の切れ味勝負を得意とする馬にやられる可能性も否定できないが、逆の展開に持ち込んだ時には非常に魅力的な馬である。次走も当然注目の1頭。

2着・マカヒキ

ディーマジェスティと同じく後方集団からの競馬となり、この日は勝ち馬よりも後ろの後方2番手からの位置でレースを進めた。折り合いに関してはこの馬の場合は全く心配することがないから道中は安心して見ていられた。3コーナー過ぎから徐々にペースアップをしていくと4コーナーでは外を回って14番手まで進出。

直線はすぐ前に1着馬がいたが、残り150メートルのところでは一瞬突き放されかけたシーンも見受けられた。ただ、坂を上がってからの末脚はやっぱりいつもの切れ味強烈なマカヒキだった。上がりはメンバー最速の33秒9。ゴール前でもう一度差を詰めている。

この馬も父がディープインパクトだが、母父がフレンチデピュティ。ディーマジェスティの母父・ブライアンズタイムと違い軽快なスピードも上手に伝える馬である。マカヒキの場合は器用さもあり、このスピードと瞬発力が武器の馬。ディーマジェスティも父がディープインパクトだが逆のタイプと見る。

この日は勝ち馬に向いた展開となったが、もう少し瞬発力を活かせる競馬になれば着順が変わる可能性も大きくある。当然、順調に調整が進めば次走・日本ダービー(G1)でも最有力候補の1頭だけに今後も注目。

3着・サトノダイヤモンド

道中はちょうど中団の9番手からの競馬。この馬もマカヒキと同様にどっしりとした気性の持ち主だけに折り合いに関しては問題なしだった。勝負所の3~4コーナーではポジションを徐々に押し上げ、直線に入る時には前の馬を射程圏に捉えてという理想的な競馬であったが直線はリオンディーズが外によれ、その影響でまずエアスピネルが不利を受け、更にそのあおりでサトノダイヤモンドも外に振られてしまったという形となった。

ちょうど、各馬がトップスピードに入っている中での出来事だっただけに悔やまれるシーンではあったが、サトノダイヤモンドの場合はおそらくきさらぎ賞(G3)からの2ヶ月程度の久々という分も影響があったかもしれない。

関西からの輸送があったにも関わらず、この日の馬体重はプラス6キロ。5着までに入線した馬の中では最も前走から馬体重の増減が激しい馬だった。順調に使われていた組と違い馬体が絞り切れていないという可能性もあり、更に久々の競馬でこの日の厳しいペースである。

ただ、これを叩いての上昇度という意味では上位組の中では最も見込めそうなだけにダービーでも変わらずの有力候補の1頭となる。

4着・エアスピネル

5着入線からの繰り上げ。この日はメンコを着用しての競馬となったが前走時よりは折り合いもいくらかマシになっていた。更にこの馬に関しては珍しく1週前追い切りでCWコースを使用。CWコースは坂路と違い、長い距離から負荷をかけることができるため中距離以上の競馬には非常に合っている調教コースでもある。

これらの工夫が功を奏したのもあるが、この日のエアスピネルはリオンディーズとの着差を前走の弥生賞の2馬身差からハナ差にまで縮めてきた。直線でリオンディーズがよれてきた不利がありながらも最後まで差を詰めており本質的な能力はやはりこの馬も高い。

次走に関しては現時点では非常に難しいと感じるが、もし東京2400メートルを目指すのであれば今まで以上にコース追いを試してみてほしいと感じる。多少なりとも2400メートル戦仕様の馬体を作ることが可能となるかもしれない。

この乱ペースの皐月賞でもリオンディーズと前走時以上に接戦の競馬が出来たのが何よりもそれを証明している。中間の調整も含めてこの馬にも注目。

5着・リオンディーズ

4着入線からの降着。道中は前走・弥生賞の時と同じくやはり前向きさが前面に出てしまった競馬。やはり、この馬は難しい馬だと感じるが、前半1000メートル過ぎから先頭に立って最後まで粘っていたあたりは負けて強しの内容。

直線で前走時には見せなかったムチを入れてよれるというシーンは前半戦の厳しいペースが影響したのか馬もおそらく相当苦しかったと感じる。この馬もここからダービーまでの間で気性の成長がポイントになってくる。

今度は直線が長くなる東京2400メートルが舞台。腹を括って朝日杯FS(G1)の時のような最後方近くからの競馬もおもしろい気がする。

2016年皐月賞総評

今年の皐月賞は、勝ち馬ディーマジェスティこそ伏兵馬として金星をあげたが、戦前に注目を集めていた有力馬たちがきっちりと力を見せた印象となった。並の馬では上位に入線するのが難しいペースとタイムだっただけに極めて順当な結果となったような感じでもある。

これら上位馬は次走もおそらく同じ舞台に立つ馬が多いだろうから皐月賞から日本ダービーでの変わり身という点でも期待してみたい。疲れが残りそうなタフな展開だっただけにまずは各馬、疲労回復に努めてほしいものである。