【追憶の名馬面】オグリキャップ
古馬になったオグリは、大阪杯から始動し天皇賞春、安田記念、宝塚記念と、全てのカテゴリーを征圧する青写真を描いたが、右前脚の繋靭帯を痛め、春シーズンは全休。野望成就は秋に持ち越された。
ひとっ風呂浴び怪我を癒して、復活の時を迎えた1989年の秋。
南井克巳鞍上で、オールカマーに挑んだ風呂上がりの怪物は、公営の怪物女ことロジータ以下を、アッサリ退け勝利。ここから、常識では考えられないローテを歩むことになる。
オールカマーVに続き挑んだ毎日王冠。ここでイナリワンと見せた激闘は、彼のレースの中でも、人気が高い。共に"マル地"。彼らしか持っていない、底知れぬパワーを披露したレースだった。
昨年の忘れ物、秋の盾を戴きに挑んだ節目の第100回天皇賞秋は、ファイター南井が烈火の如くムチを入れるもエンジンが掛からなかった。オグリが伸びあぐねる間に、内から抜け出したのは、同い年のスーパークリークと武豊。
クビ差まで追い詰めるも、結果はまたもや2着。
古馬王道路線を歩むなら、次はジャパンカップだが、オグリはマイルチャンピオンシップに現れた。
春のマイル王、バンブーメモリーを差し置いて1.3倍の支持を集めた怪物だったが、流れに乗れず、もがいていた。それとは対照的に、バンブーはスムーズ。
直線、最初に抜け出したのはバンブー。オグリと南井は、そのバンブーの内へ潜り込んだ。
逃げるバンブー。内から闘志剥き出しで迫るオグリ。3位以下を大きく引き離し、繰り広げられた接戦は、ハナ差、オグリキャップに軍配が上がった。
激戦の余韻が残ったまま、連闘で挑んだジャパンカップ。
ここでもオグリは、燃え盛った。相手はニュージーランドのホーリックス。
オサリバンが荒ぶる風車ムチを入れる外から、オグリが来た。負けじとムチを入れる日本の豪腕、南井。それにガッシリ応える連闘のオグリ。日本の人馬も荒々しく迫ったが、クビ差及ばなかった。
勝ちタイムは2.22:2。ホーリックスとオグリが叩き出したタイムは、芝2400mの世界レコード。負けはしたが、記録にも記憶にも残る一戦となった。
競馬場を駆け抜けるサラブレッドは馬主が代表者として所有しているので、外野の我々がとやかく言う権限はない。故に、このバケモノローテーションも、彼の馬主が選択したことなので、別段文句を言うことはないが、ただ一つ、オグリに「よく頑張ったね。」と労いの言葉を贈りたい。エライ馬やね、この馬は…。
敗れはしたものの、掉尾の有馬記念まで、歯を食いしばり駆け抜けたオグリ。もうこの頃になると、彼はウマキチの手から離れ、全ての人に愛されるスーパーヒーロー、というかアイドル的な存在になっていた。
その象徴として挙げるなら縫いぐるみだろうか。緑や黄色のメンコを装着した、布のオグリキャップは、白物家電の様に、一家に一オグリ、といった感じで、家庭に浸透した。
加熱するオグリブームが更に火力を増したのは、休養明け初戦となった年の安田記念。鞍上は南井から武豊へバトンタッチ。流星の如く現れた若き天才ジョッキーとの初コンビ結成の一報は、大衆のテンションが否が応でも高めた。
単枠指定を受けたオグリキャップと武は、3番手グループを進んだ。道中、彼らに絡んでいったのが、シンウインド。鞍上が、かつての盟友、南井克巳だったというのも面白い。
直線、堂々と先頭に立つと、桁違いの馬力を見せつけ他馬を突き放した。
岡部のヤエノムテキが猛追するも、アイドルコンビの影を踏むことは出来なかった。
レコードタイムで、3つ目のタイトルを手にした彼は、獲得賞金額でシンボリルドルフを上回り、日本一金持ちのサラブレッドに君臨した。