【追憶の名馬面】サイレンススズカ
好スタートを決めると、そのまま流れる様にハナへ。息を入れ引きつけることもせず、常に5,6馬身のリードを保ち飛ばした。直線に入っても、一向に脚色が衰えなかった。香港で初タイトル、という派手な戴冠を期待したが、最後はバルズプリンセスら後続に交わされ5着。しかし、スズカの脚色は最後まで同じだった。という事実は見逃せない。
息も入れないで一気に走り抜ける逃げ馬。
こんな馬が現れれば、もうどうしようもない。まさか、その馬が、サイレンススズカだったと、この時、何人の人が気付いていただろうか?年が明けて1998年。香港で走り終えた後、体調不良に見舞われたサイレンススズカは、2月の東京OPレース、バレンタインSから始動した。鞍上はもちろん武豊。西の騎乗を断り、スズカに乗るためだけに、武は東上した。この事実から、如何に彼がスズカに惚れ込んでいたのかが読み取れる。
天才を惚れさせた栗毛の馬は、期待通りの走りを見せた。
外枠からの発走となったが、気持ちの良い出足でスーッとハナに立った。武は何もしていない。ただ、手綱を握っているだけなのに、彼のスピードは他馬とは明らかに違った。
1000mは57.8秒。無茶苦茶なペースである。後続勢としては後ろで控え、彼がバテたところを討つという作戦が有効に思うが、はしゃぐ栗毛は全くスピードを落とさない。
直線に入っても大きなリードを保ちスイスイと走る。後藤のホーセズネック、或いは岡部のメイショウデンゲキが鞭を入れられ必死に迫るも、遥か前方を行く栗毛の影は踏めなかった。
誰が見ても明らかに馬が変わった。と分かる強さをひけらかしたサイレンススズカ。彼のスピードは更に加速していく。一秒でも早く走り抜けたい。という激情に駆られたスズカは、中山記念で重賞初Vを決めると、続けて中京で開催された小倉大賞典も制した。
逃げに逃げまくる彼だが、その姿には草食動物特有の必死さはない。サラブレッドに対して適切かどうかわからないが、彼は楽しんで走っている様に見えた。
私は、武と一緒にただ気持ち良さそうに走る姿を見て、羨ましく思い、スズカの風を、ただ1人味わっている武に嫉妬した。