【追憶の名馬面】ダイワメジャー

安藤と初めてコンビを組んだ2006年の読売マイラーズカップで約1年振りの勝ち星を手にして臨んだ安田記念は、2番人気に支持されたが4着。瞬発力勝負に持ち込まれたことが敗因だった。安藤の騎乗停止により、四位洋文と挑んだ宝塚記念で4着した後、夏シーズンは休養。

英気を養い、秋競馬を迎える。始動戦の毎日王冠を制し、前年悔し涙を流したマイルCSに挑む予定だったが、レースの勝ちっぷり、さらに体調がすこぶる良好だったことから、陣営は天皇賞秋に進路を変更した。

2年前、最下位の悪夢を見た秋の盾戦。1年前より、まずは2年前の忘れ物を取りに、彼は第134回天皇賞秋へ挑んだ。

この天皇賞秋は、前年無敗で三冠レースを制しフランスへ渡った英雄が出走を表明していたが、直前で回避が発表され戦況は一気に大混戦となっていた。

その中で、7.0倍の4番人気に支持されて、ダイワメジャーは府中の馬場へ飛び出した。

佐藤哲三とインティライミが引っ張る流れを番手からの追走。皐月賞と同じ位置でレースを進め直線へ向く。手応えは抜群だった。いつでも抜け出せる状態だったが、安藤はスグに仕掛けなかった。ギリギリまで後続を引きつけ、左後ろから北村宏司のダンスインザムードが迫ってきたのを確認し、ようやくメジャーを追い出した。

芝生を根刮ぎ抉るようなパワーで府中の坂を駆け上る。そこへ内から、ダンスと同じ社台RHの勝負服を纏ったスイフトカレントと横山典弘が急接近してくる。
半馬身、クビ、と追い詰めたが、それ以上、ダイワメジャーの前へ出ることは出来なかった。

皐月賞制覇から2年半。歴代3番目の長期ブランクを跳ね除け、2つ目のタイトルを手にした愛馬に対し、上原は「ノド鳴りを患った馬達に、希望を与えることが出来た。」と語り、彼の祖父ノーザンテーストを見定めた吉田照哉も「奇跡と言っていい。」と、惜しみない賞賛の言葉を贈った。

暴れん坊、穴をあけた皐月賞馬から奇跡のヒーローへ。

生まれ変わった、いや、本来あるべき姿になったダイワメジャーは、盾を制した勢いそのままに、第23回マイルCSに挑んだ。

番手抜け出しという一つの型を作った彼は、ここでも小牧太のステキシンスケクンを見ながら番手に付けた。4角前でシンスケクンを完全に捕らえたがスグには追い出さない。ジックリ溜めて追い出されると、巨神兵の様な力強さで脚を伸ばし始めた。迫ってきたのはまたしても社台RHの服色。武豊に導かれた才女、ダンスインザムードが、鋭く迫る。

ダンシングキイか?スカーレットブーケか?

日本競馬屈指の良血馬である彼らの競り合いは、栗色の良血馬に軍配が上がった。

天皇賞秋からマイルCS制覇は、ニッポーテイオー以来19年振りの快挙。

走るたびに歴史を刻み続ける優駿の姿を、グランプリの舞台で見たいと渇望したウマキチは、彼をファン投票2位で第51回有馬記念へ推薦した。

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