【追憶の名馬面】キンツェム

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親友、優しいパパの他に、彼女には相思相愛のフィアンセまでいた。フランキーという厩務員とは、互いに好意を抱く間柄だったらしい。これについても、一つエピソードを紹介しておこう。

寒さが厳しい時期、キンツェムと猫、そしてフランキーは、いつもの様に貨車の中で揺られていた。この時、フランキーは毛布がなかったため、体を丸めて寒さを凌いでいた。それを見たキンツェムは、自分が着ていた馬服を脱ぎ、最愛の人に掛けたという。

どこで聞いたか忘れてしまったが、馬という動物は、仲間が困っていると、それを助ける習性があるらしい。なるほど、フランキーとキンツェムは、ヒトとウマという間を超え、固い絆で結ばれていたのだろう。

こんなにも愛らしい彼女がいたので、フランキーは生涯独身で過し、名を名乗る時もフランキー・キンツェムと言っていたので、彼の本名は、誰も知らない。これらのエピソードの真偽は定かではないが、お菓子の家を信じていた頃を思い出して、胸に留めておきたいと思う。

1879年、5歳まで現役を続けたキンツェムは、結局負けの悔しさを知ることがないまま競走馬生活に別れを告げた。

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